本文コピー
▼本文
窓がない。 密閉された畳張りの部屋には布団が一つ敷かれているだけである。 「ここは…」 起き上がろうとした幻刀斎を激しい頭痛が襲う。 蝋燭の頼りない灯りが幻刀斎の痩せこけた頬に影を作った。 「起きてはお体にさわりますぞ」 優しく幻刀斎に語りかけたのはニイポーである。 「ひどい夢を見ていたようだ…」 幻刀斎は夢の一切を覚えていた。背中を一筋の汗が伝う。そのまま布団に横になると幻刀斎は言った。 「どのくらい…?」 「およそ10年」 ニイポーは答える。 天井を見つめたままの幻刀斎。 「そんなにか…して首尾は?」 「先生が眠りについてから件の男と接触しました」 「…よくやった。奴は覚えておったか?」 「先頃思い出したようです」 「そうか…奴は今どこに?」 「下に居ります」 「!」 網走の定食屋、番外地の二階には開かずの間がある。 「兎も角、何か腹に入れねば仕様がない」 「ご安心を」 ニイポーは傍の包みから注射器を取り出すと幻刀斎の袖を上げた。 「それは?」 ニイポーは答える。 「そりゃもう最高に効くやつですよ」 言うや否や幻刀斎の静脈目掛け針を突き立てた。
スレッドへ
日間
週間
月間