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松石は霊王の胸ぐらを激しく掴む。二人が睨み合い、樋井川の時は止まった。 お互い何も言わないままその怒気だけが増していく。 ビリビリと空気が震える。 恐怖に慄いた幻刀斎はこのとき失禁している。 しかし半身が川に浸かった状況が彼を末代までの恥から救った。 ここで厨川伝七について語らねばなるまい。 かつて江戸を襲ったバイオハザードが未曾有の被害と混乱を生んだことは以前述べた通りである。 そしてその元凶こそが厨川なのである。 厨川の靴下(通称キラーソックス)から突然変異したウイルスはその感染力、増殖力共に人類がそれまで経験したものの比ではなかった。 そのウイルスに感染したものの遺伝子は著しく異常をきたし、その仕組みこそ不明ではあるが、結果的に厨川の遺伝子に置き換わる。 つまりみんな厨川になるのだ。 都市伝説では遊郭で厨川を相手にしていた女が唯一の抗体保有者であるとか。 しかし厨川もキラーソックスの行方も知るものはいない。 幻刀斎は居酒屋「ぼけ八」の座敷にて、吹き飛ばされた襖を直していた。 その向こうで松石と霊王が肩を組み仲睦まじく酒を交わしている。 「仲直りしたんだね」 襖を背にして幻刀斎は涙が止まらない。 これは…記憶… ふと気がつくと幻刀斎は樋井川の川縁にいる。 松石と霊王は未だ睨み合っている。 項垂れるように水面を見つめた幻刀斎はそこに映った自らの姿を見て驚愕した。 「厨川になってる!?」
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