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「……」 ガンプラファイトを始めた理由を尋ねた途端。アーシェの表情が曇った。 その表情を見、聞いてはいけないことだと悟ったかおるこが訂正しようとしたが……。 「かおるこ先輩は……私がピアノの国内コンクールで優勝したのを知ってますか?」 ぎこちない笑みを浮かべてアーシェが言った。ガンプラファイトを始めた理由……それを聞いてほしいのだろう。 かおるこは首を前に倒した。 「アーシェちゃんが中学三年生の頃だよね。新聞にも載ってたよ。あの桜木・R・レーシェの娘が優勝したって、当時騒がれてたもん」 「……はい」 アーシェは浮かばれない顔をしていた。それが気になったかおるこが一歩踏み出して聞いてみた。 「もしかして、その後に何かあったの……? 将来お母さんのようなピアニストになるって世間で言われてたアーシェちゃんが、うちに来てピアノじゃなくて作曲の勉強してるのに関係があるの……」 「才能がないって言われたんです……お母さんに……」 「え?」 その発言にかおるこは言葉に詰まってしまった。母親に才能がないと言われた……その一言がアーシェの心に重くのし掛かっているか、計り知れないから。自分に言えることはない。 「あれは……コンクールに優勝して間もない頃です」 アーシェはゆっくりと過去を語り出した。 「お母さん。見て、私、優勝したのよ!」 中学三年生の夏。アーシェの母。桜木・R・レーシェが家に来ていた。 世界的なピアニストのレーシェは、元バイオリニストの父を伴って世界を転々としていた。 年に数回。一人暮らしをしているアーシェの家に両親がやって来る。 アーシェはこの日を楽しみにしていた。 先日、国内コンクールで優勝を果たしたアーシェ。その両手には輝くトロフィーが握られている。 尊敬する母親に誉められたい。その一心で母親にトロフィーを見せた。
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