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「まあ、レーシェだからね……」 父は渇いた笑いを浮かべる。表情を真剣なものに変えてアーシェの頭にその大きな手を置き、わしわしと撫でる。 「でも、アーシェのことを心配してたよ。早く家に帰ろう」 「……うん」 まだレーシェに会うのに抵抗はあるものの。いつまでもここにいるつもりはなかった。 帰ってレーシェに謝ろう。そんな気持ちがアーシェの腰を上げさせた。 二人でまだ日の沈んでいない夕焼け空の下を並んで帰る。 「ねえ、お父さん……私これからどうしたらいいかな。才能ないって言われちゃったし」 「そのわりにはトロフィー捨てないんだね」 アーシェが握っているトロフィーを見、父親がそんなことを言った。 「当然よ。だってこれは……私が頑張って努力して手に入れた証だから、これを捨てちゃったらいままでの私を無駄にしちゃうもの」 「はは、そうか。そういうところはそっくりだな」 「何が?」 「何でもないよ」 父親はにっこりと笑う。次に彼はこう続けた。 「そうだ。アーシェ。ピアノが駄目だったら、作曲家を目指すのなんてどうだい?」 「作曲家?」 父親が短く首肯する。 「曲を作るのは楽しいんだよ。アーシェもやってみるといい。様々なことを学んで見聞を広げれば発想力が豊かになっていい曲が作れるようになるんだ」 「色々学んで見聞を広げる……私に出来るかな。作曲家……」 「私はアーシェなら出来るって信じてるさ、いつかお母さんが認める作曲家になる。そうなるように私は応援するよ」 「……ありがとうお父さん」 そう言って落ち込んでいたアーシェは満面な笑顔を父親に向けた。 「これが私がピアノをやめて作曲家を目指してる理由です……」 「そっか、そんなことが……」 アーシェの過去を知ってかおるこが腕を組んで唸る。
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