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確かに見覚えがあった。 この写真が撮られたであろう場所、そして何より奥の方で瞳を見開く男。 Zは思い出そうとしている。 しかしである。人造人間であるZに曖昧な記憶というものが存在するであろうか。 さらにはその朧げな記憶を引き出すことができないことなどあるであろうか。 「それにしても…」 Zの視線は前列、右端の女に向けられている。 一頻りその女を見つめた人造人間Zの下腹部では膨らむ筈のないモノが膨張していた。 「意外と太ぇんばい」 その時、Zの脳内にノイズが走る。 「こ、これは、おまつか!?」 再起動中のおまつの脳波がZの脳内にアクセスを試みているようだった。 それはやがて音声に変わり言葉を発した。 「軍人…さん…」 「むう!」 Zは頭を抱えうずくまる。 「おまつの記憶が…同期しようと…している…」 Zはある光景を確かに見た。 写真の男、軍人と呼ばれた男が顔を赤らめ去っていく後ろ姿を。 「このままではマズイ」 Zはおまつの行為の理由が分からぬまま、あらん限りの力を込め叫んだ。 「ディラン!!」 しかし、その言葉が声帯を震わせることはなかった。 Zの身体の動きにまで影響を及ぼし始めたおまつの思考がそれを許さなかった。 「や、やばし…」 薄れゆく意識の中、Zの人工頭脳はある光景を描き出していた。
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