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◇ ファイト終了後。さやかは薄暗いシュミレーター内部でうずくまっていた。 自分が負けたせいでマミの悲願が叶わなくなってしまった。仲間に合わせる顔がないと自分自身を責めて塞ぎ混んでいる。 「あたしって、本当。バカだ………」 「ああ、本当にね」 シュミレーターの扉が開かれ、杏子が中に入ってきた。さやかはビクン、と肩を揺らし。顔を上げる。 「……杏子」 「いつまでメソメソしてんの。ほら、行くよ」 杏子が手を差し伸べてくる。だが、さやかはその手を取ろうとはしない。 「いいよ。あたしはここにいる……」 「バカ。次やるチームの邪魔になんだろ。ほら、さっさと来いっ!」 「あぁっ! や、やめてってば!」 有無を言わさず杏子はさやかを引き摺り出していく。外へ出るとマミとほむらが彼女達を待っていた。 「……美樹さん」 「マ、マミさん……えっと、いたぁっ!?」 何かを言おうとしたさやか。しかし、突然ほむらが詰め寄ってきて彼女の頭にチョップを叩き込む。 「な、なにすんのよぉ!」 頭を押さえるさやかが睨む。ほむらは肩を竦め、溜め息を吐いた。 「あなたの事だから、負けて責任感じてたんでしょう。違う?」 「うっ……」 本心を見抜かれてさやかは言葉に詰まる。 「だろうと思ったわ。巴さん……彼女に何か言ってください」 「そうね」 マミはさやかに近寄り。その手を自身の手で優しく包み込んだ。 「美樹さん。私は、あなたが負けた事をとやかく言うつもりはないわ」 「え、でも……。あたし……先輩達に優勝を捧げるってマミさんの悲願を台無しにしちゃいましたよ」 「ここで負けたのなら、私達はまだまだって事よ……。悔しいけれど更に鍛練を積んで強くなればいい。2人もそう思うでしょ?」 諭すようにマミが言う。次にその視線は、杏子とほむらに向けられた。 「まあ、確かにそうだな。負けたらそれをバネにして強くなればいいし。あたしは負けっぱなしは嫌だからね。それにあんたのあんな戦いを見せられたらねぇ……こっちも負けてらんないって気になっちまったよ」 「え?」 杏子の言葉にさやかは目を丸くした。 「悔しいけど……諦めないで相手に立ち向かうあなたの姿が、かっこいいと思ってしまったわ。誰も……あなたのあの戦いを見て、あなたを責める人はいない」 「ほ、ほむら……」 珍しく自分を誉める発言をほむらがしてくれた。さやかは少し泣きそうになる。 「ねえ、美樹さん。これでわかったでしょ。誰もあなたを責めたりしないって……。だから機嫌を直して、皆あなたには笑顔でいてほしいのよ。きっとあの子もそう思ってるわ」 「……はい!」 皆の思いを聞いてさやかは立ち直った。満面な笑顔を向けると全員、安心して微笑む。 「ごめん。心配かけて……」 「本当にね。あんたは能天気なのがお似合いなんだから、変に悩まない方がいいんだよ」 「ひっでぇ! あたしだって悩む事だってあるっての!」 「それは初耳ね。あなたに悩むという言葉が脳みそにあるとは思わなかったわ」 「んだとチクショー!」 ほむらに馬鹿にされ、さやかは腕をブンブンと振り回しながらほむらを追いかけ回した。そんな2人のやり取りを見ていてマミは元のさやかに戻って安心する。 「ほら、ふざけてないで桜翠学園の人達とファイト終了の挨拶に行くわよ!」 手を鳴らし。マミは仲間達に伝える。 彼女達は桜翠学園がいる場所まで歩いてお互いの健闘を讃えて握手を交わした。これで見滝原中の今年の全国大会はここで幕を引くのだった。
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