伝説は再び
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どうも名無しです
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09/04 17:51
網走の冬は九州育ちの藤沢にとって寒いはずである。
分厚い雲、雪の上から流氷を臨む最果ての風景。薄く暗い白。
藤沢は冬の色が好きだった。
やがてフクジュソウが春を知らせ、季節は巡り何度目かの夏が来る。
最果ての地、網走に数十年前からある洋食屋「番外地」。
店の名物「アメリカンチキンカツ」を揚げる藤沢の姿がそこにあった。
番外地の主人ニイポーは開店前に必ず藤沢にチキンカツを揚げさせる。
それを食してから店を開けるのが日課となっていた。
この日チキンカツを豪快に平らげたあとニイポーは言った。
「進一、肉切ってみるか?」
進一と呼ばれた藤沢は答える。
「まことでござるか?」
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10
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イワナなし
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09/08 01:24
わからない…わかりたくない…
藤沢の手に握られた出刃庖丁。滴り落ちる赤い液体…これは血糖値高そうだぞ、そんなことを考えてしまうほど現実離れした光景。
(…よしんば)
「!?」
藤沢の耳に確かに聴こえた声。
俺は一体どうなってしまうんだ…
藤沢は走り出した。
がむしゃらに、ただがむしゃらに。
足がもつれてまっすぐ進むことすらままならない、夢であってくれ…
気がつくと小さな居酒屋が現れた。
藤沢は吸い込まれるように引き戸に手をかける。
中から聞き覚えのある声が響いた。
「ウーーーーーーィイ!」
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11
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一発
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09/08 15:57
左手にカウンター席、右手と奥にテーブルとこじんまりした座敷がある。
「タカさん、久しぶり」
藤沢は慣れた動きでテーブル席に掛けた。
「ウゥ〜〜ィ、ウィ?」
藤沢にタカと呼ばれた店の主人は店でのやり取りを全て「ウゥ〜〜ィ」でやり過ごすことで知られる。
町の噂では近所の移動式回転焼屋の主人に情事の誘いを持ちかけられたときも「ウゥィ」と快諾したとか。
「いつもの」
藤沢の一言は二人を隔てていた時を一瞬にして埋めた。
「ウゥ〜〜ィ」
小気味よくタカは答える。
すぐに生ビールが置かれ、それに口を付けないうちに酢牡蠣が運ばれてくる。
「ウィッ」
藤沢は酢醤油のかかった牡蠣に紅葉おろしがあしらわれたこのメニューが好きだった。
慈しむようにゆっくりと口に運ぶ。
ふと脳裏にある言葉がよぎった。
「ゲン…ト…ウサ…ィ」
次の瞬間、藤沢は激しい悪寒と腹部の痛みに襲われた。
そして大量の吐瀉物を口から飛ばすと椅子から転げ落ちた。
意識も切れ切れ見上げるとタカが死んだ魚のような眼で藤沢を見下ろしていた。
「はかった…な…タカ…」
タカは目尻を僅かに下げると言った。
「ウゥ〜〜ィ」
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12
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イワナなし
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09/08 23:55
タカは悪魔のような表情で(藤沢にはそう見えたことだろう)奥から看板娘(30代割烹着)を呼びつけ、高速でスパンキングを与えていた。
「こ、この外道がぁぁ!…」
彼女はかつて藤沢が愛した女性だったのだ。
しかしいま、タカの逸物に恍惚の表情を浮かべる彼女はまさに獣であった。
タカはよだれを垂らしながら叫ぶ。
「ノ、ノロウ〜〜〜ィィルス」
そう、居酒屋の朝は早い。
まだ夜も明けやらぬ柳橋連合市場。眠い目をこすりながらカキを物色するタカの姿があった。
その姿はまるで近所の林でカブトムシを探す子供のように清らかだ。
阿吽の呼吸で仲買人との交渉が成立する。長年の付き合いだ、すぐわかる。
タカが
《人を殺そうとしていることを》
こうして手に入れたカキを用いて藤沢に酢牡蠣を提供したのだった。
現にこの酢牡蠣によって、行橋の男性が一人帰らぬ人となっていた。
【南無三!】
心中にて念仏を唱えた藤沢と勝利を確信したタカの前に現れたのはマイセンのカップと一切れの食パンを手にした喫茶店のババァであった。
そしてTOTOの便座をはめたままのどデカイケツを携えて一言だけ告げた。
「た、助けて…早く…抜けない…」
夕立が地面を叩きつける音とスパンキングが、驚くほどに同化していた。
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13
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一発
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09/09 10:39
ババアは常連である滝廉太郎クズレの男に便座を外してもらうと「ブルジョワ〜」と恍惚の表情を浮かべた。
藤沢がババアと男との間を行き交うギョウ虫の動きを想像しているとき、それは起こった。
青い光が幾筋も連なるトンネルが目の前に現れ、藤沢はその奥へと進む。
やがて目の前に小さな一点の光が見えた。
次第に大きさを増す光の中へ吸い込まれると女の低く暗い声が聞こえた。
「お忘れ物のございませんように〜」
藤沢の鼻を濃厚なホワイトソースの香りが突く。
「み、みつる?」
藤沢は今、時空の旅人である。
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14
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イワナなし
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09/09 12:39
小躍りする中年女の動きは、まるでお花畑を散歩する乙女のようであった。
しかしどうだろう、その顔はみにくくおかっぱ頭の醜悪さが藤沢の逆鱗に触れることとなる。
あぁ!憐れな彼女は気づいているのだろうか、間も無く蝶のように儚い命の灯火が終焉を迎えることを!
藤沢は甘味しかないアイスティーをぐびと飲み干すと妖刀醜斬丸に手をかける。
「あの世へお忘れ物のありませんように…」
「おわす…」
女が振り返る間も無くその身体は無残にも短冊状に切り刻まれた。
店内には年老いた母の絶叫が響く。
藤沢は一刀のうちに首を払い、母にも後を追わせたのだ。これぞ情けか。
藤沢は時空を超え、不埒な人斬り三昧を行おうとしているのだろうか…。
メインショップと呼ばれるよろず屋で刀の血を洗い流す。
藤沢の中に眠る修羅の血脈が、虎視眈々と顕在化を待ち続けていた…。
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15
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一発
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09/09 21:12
「ふぅっ」
一つ息を吐き出した藤沢は醜斬丸に映る自らの眼を見て呟いた。
「これは…夢なのか…」
メインショップの喫煙スペースはいつになくガランとしている。
指先が痺れていた。
「拙者は何かとんでも無いことを忘れているのではないか?」
娘の声が頭の中でこだまする。
「忘れ物のございませんよ〜に〜」
胸元にレースをあしらった上着に、体躯に似合わぬ短いスカート。
娘はいつもカウンターの向こうで小説を読んでいた。
何故か藤沢はその本の内容を無性に知りたくなった。
同時に下腹部に突き上げるものを感じた。
「今なら抱ける気がする」
藤沢は立ち上がりかけて止まると、また腰を下ろして遠くを見ながらニヒルに微笑んだ。
「そういやさっき斬っちまった…」
雨上がりのメインショップは夕焼けの赤に染められている。
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16
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イワナなし
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09/09 22:52
藤沢はもはや極悪非道な修羅になろうとしていた。
「血が欲しい…」
うずく右手。身体は自然とかつてミキティと呼ばれた女の元へ向かっていた。
その時である。
「ヤリたい…」
聖戦士ニイポーだった。
死んだかに見えたニイポーは、恐るべき性欲の力によって息を吹き返したのだ。
藤沢の殺意、そしてニイポーの性欲。
男の二大本能がぶつかろうしている。
「やめとけって!」
禍々しい殺意の波動を切り裂く声…
「ハゲロカビリー!」
藤沢は叫んだ。
彼こそは
「不死の仙人、ロカビリーマツオ」だった。
人々は敬意を込めて彼をこう呼ぶ。
「ハゲロカビリー」と…
(ハゲとはロカビリー界に於ける「統べる者」の意)
「やめとけって!」
ハゲロカビリーが両手を挙げるとたちまちアップライトベースが現れ、キーボーと事故車を闇へと葬り去った。
「こ、この力は…!」
ハッ!?
額にびっしょりと汗をかき、目が覚めた藤沢がいたのはあの、番外地だった。
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17
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一発
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09/10 10:44
網走にある洋食店「番外地」の窓を風が強く叩いている。
「ハ、ハゲビリー…」
「誰がハゲだ、ちゃんと仕込み終わったのか?」
ニイポーは藤沢に言うとチキンカツを平らげた皿を持って厨房に入ってきた。
「え?」
藤沢は状況が飲み込めない。
「仕込みは終わったのか?」
「ミキティが…」
「俺の嫁がどうした、馴れ馴れしく名前で呼ぶな」
ニイポーは深いため息を吐く。
「進一、最近たるんでるぞ。御前試合も近いし仕方ないが仕事は仕事だぞ」
「すいません…」
「ゴホッ、まったく」
ニイポーはカレンダーをめくりながら何やら計算を始める。
「ちょうど試合の頃だな…どうやら俺は父親になる」
「は?」
カランコロンカラン
ちょうどその時、店の扉が開いた。
「ゴホッゲホッ、さあ…お客さんだ、それとな進一…」
ニイポーは咳をおさえた手の平を藤沢に見せると言った。
「俺はもう長くない」
その手は血に染まっていた。
網走の夏は短い。
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18
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イワナなし
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09/10 22:57
「きったね!」
ニイポーの鮮血を見て反射的に藤沢は叫んだ。
しばらくの沈黙の後、ニイポーは語り出す。
「進一、いや、先生。俺はあなたが人斬り竜ちゃんだってこと、信じられる気がするんです。時折見せる殺し屋のような鋭い目、包丁の扱いも人一倍上達がはやかったっけ。。
先生、御前試合で俺に優勝する姿…見せろって!!」
ニイポーの決意の異臭が藤沢の記憶を蘇えさせようとしていた。
「俺は…藤沢竜太郎…」
藤沢はおもむろに御前試合の組み合わせを手に取った。
そこには、あの名前が当たり前のように載っていた。
「違和感…幻刀斎…!!」
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19
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一発
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09/10 23:48
伝説は再び 〜懐古編〜
完
次回…
藤沢竜太郎と違和感幻刀斎ついに遭遇か!?
現代の侍 〜旅情編〜
お楽しみに!
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店の名物「アメリカンチキンカツ」を揚げる藤沢の姿がそこにあった。
番外地の主人ニイポーは開店前に必ず藤沢にチキンカツを揚げさせる。
それを食してから店を開けるのが日課となっていた。
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