大江戸大河〜SF編〜
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イワナなし
iPhone ios9.1
10/30 17:31
ピー ピピン ピピン…
「大気圏に突入します チェアを元の位置にお戻しください」
人類がこの世に誕生し、以来、人々は空に憧れ続けてきた。
時に空を恐れ、時に空を崇め、いつの日かあの遠い星々へたどり着きたい、そう考えていた。
その欲望の殻は科学技術の発展により破られ、今や宇宙の星々に数多の人類が移り住んでいた。
藤沢博士…
いまや世界にこの男の名を知らぬ者はいない。
まるで異次元から飛び出したような古来からの知識を持ち、現代科学との融合によって宇宙への旅を実現させた伝説の科学者である。
いま、宇宙から一隻の船が地球へとおりたとうとしていた…
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返信数:26件
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18
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一発
iPhone ios9.2
01/15 20:21
確かに見覚えがあった。
この写真が撮られたであろう場所、そして何より奥の方で瞳を見開く男。
Zは思い出そうとしている。
しかしである。人造人間であるZに曖昧な記憶というものが存在するであろうか。
さらにはその朧げな記憶を引き出すことができないことなどあるであろうか。
「それにしても…」
Zの視線は前列、右端の女に向けられている。
一頻りその女を見つめた人造人間Zの下腹部では膨らむ筈のないモノが膨張していた。
「意外と太ぇんばい」
その時、Zの脳内にノイズが走る。
「こ、これは、おまつか!?」
再起動中のおまつの脳波がZの脳内にアクセスを試みているようだった。
それはやがて音声に変わり言葉を発した。
「軍人…さん…」
「むう!」
Zは頭を抱えうずくまる。
「おまつの記憶が…同期しようと…している…」
Zはある光景を確かに見た。
写真の男、軍人と呼ばれた男が顔を赤らめ去っていく後ろ姿を。
「このままではマズイ」
Zはおまつの行為の理由が分からぬまま、あらん限りの力を込め叫んだ。
「ディラン!!」
しかし、その言葉が声帯を震わせることはなかった。
Zの身体の動きにまで影響を及ぼし始めたおまつの思考がそれを許さなかった。
「や、やばし…」
薄れゆく意識の中、Zの人工頭脳はある光景を描き出していた。
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19
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一発
iPhone ios9.2.1
03/06 00:40
もう 10年以上も前さ。
俺たちゃどうしようもなかったんだ。
自分で自分を廃人だなんて言っちゃってさ。
あれは春だった。強烈に覚えているのさ。
あの時の光景も匂いも、空気の肌触りなんかもね。
そりゃあ心地の良いものだった。
今じゃどうだい。
地べたに這いつくばるような暮らしで、良いことなんてありゃしなない。
でも、あれは夢なんかじゃないのさ。
決して夢なんかじゃ。
夢?
夢とは。。
Zは電気羊の夢を見るか。
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20
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イワナなし
iPhone ios9.2.1
03/06 22:20
海抜マイナス200メートル。
この断崖絶壁の底に彼らの街はある。
いや、街と呼ぶのもはばかられるこの居住区には数多の人間が暮らしていた。
およそ文化的とは言えぬこの街の暮らしの中で唯一の娯楽と呼ばれるもの、それがZの唄だった。
彼は体を買った。本当の人間にどうしてもなりたかった。
その結果全ての財産を失ったZ、そして藤沢博士はこの居住区に送られたのだ。ここには労働などない。ただ、この1日がある。
いわゆる「世界」から、廃棄物処理の名の下に数え切れぬほどの残飯が送られてくる。これを処分するのが彼らの仕事といえば仕事なのかもしれない。
送り主はこの居住区の人間を「虫」と呼び、また彼らも送り主のことを「豚」と呼ぶのだった。
Zの唄はいつしかこの街の希望になった。
元は人間らしい生き方をしていたものも多くいる。彼らは今立ち上がろうとしていた。
「シーズンオブザウィッチ…」
魔女の季節が始まろうとしていた。
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21
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一発
iPhone ios9.3.2
07/13 11:45
今夜もZの歌は人々の心を癒していた。
広場にはステージが組まれ、無数の群衆がZの前に聴き惚れるように座っている。
「サンキュー」
Zが歌い終わるや群衆からは惜しみない拍手が送られる。
続けてZの十八番ボブディランの曲が演奏がされると、涙を流す者さえいた。
曲が終わりこの場にいる者全てがその余韻に浸る奇跡のような時間。
ひとつ息を吸い込んだZは優しい声で言った。
「曲ができた」
一瞬の静寂ののちワッと歓声があがる。
「とうとうか」「待っていたぜ」
口々に歓迎の言葉を吐く人々。
「ちょっと自信はないんだがね」
少し顔を赤らめZは続ける。
「だがこれは俺たち人類の今世紀で最初の曲だ」
今夜で一番の歓声が響きわたった。
Zは少し眩しげにその光景を眺め、歓声が一通り止んだ頃、意を決したように口を開いた。
「聴いてくれ、"よかろうもん"」
ギターストロークが始まった。
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23
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イワナなし
iPhone ios9.3.2
07/13 16:25
徐々に加速するストローク。
そのサウンドはうねりとなり聴衆を夢中にさせた。
新曲、いや、神曲となるであろうウタの誕生に、歴史の証人となったことに対する歓びに、人々は酔いしれていた。
Zの勢いは止まらない。
彼独自のピッキングスタイルは今や「Zピッキング」として教則本にも載っているくらいのオリジナル奏法だ。
いよいよ曲も終盤に差し掛かったキメのパート。その刹那…
「チッチッチダンダンダダダン!」
リズム。
そうこれがリズムだ。
どこからともなく現れたその男はビートを刻みながらこう呟いた
「青春のばかやろう…」
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24
]
一発
iPhone ios9.3.2
07/20 21:25
今宵ふたりではしご酒
三軒くらいはよかろうもん
思い出話に花咲かせ
肩組み合えば涙酒
二軒目からは芋焼酎
ボトルキープでよかろうもん
有線からは懐メロで
ああだこうだのからみ酒
三軒目からは日本酒だ
我を忘れてよかろうもん
面影残す女将さん
呆れて物も言えません
なんだかんだで四軒目
そろそろ寝たってよかろうもん
いい男だとおだてられ
ビールをあおれば日が変わる
好きなあの娘も年老いた
子供がいたってよかろうもん
俺たちゃ相も変わらずに
酒でも飲んで暮らそうや
そんな話に我忘れ
五軒目突入よかろうもん
財布の事は気にすんな
どのみち俺らにゃ明日がない
ここまで実に10分。
間奏のギターストロークとハーモニカが怒涛ともいえる勢いで静まり返った会場を浸していく。
Zの勢いは止む気配がない。
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25
]
一発
iPhone ios10.2
01/12 17:14
明日を探しに行くんだよ
お前と一緒によかろうもん
赤き眼は兎の泪
まあるい月が笑ってら
恋も恋とて我が身を焦がし
酒で薄める今日もまた
幾度も幾度も繰り返す
よかよかよかよかよかろうもん
よかろうもんもんもんもんもん
おかぁーさぁぁーーーん!!
優に50番は超えるだろう大作「よかろうもん」は途中30分におよぶハーモニカの間奏を挟み5時間に渡り続いた。
Zが演奏を終えたとき、ギターの弦は一本も残っていなかった。
この大作がその音を止めたとき、群衆は一様に目を閉じ、辺りに神々しい静寂が渦巻いている。
Zは最後の叫びによって潰れた声帯で声にならない声を発すると立ったまま気絶した。
側に駆け寄る者もなければ拍手が起こるわけでもない。
街は深い眠りに包まれていた。
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26
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イワナなし
iPhone ios10.2
01/23 16:32
静寂と共に朽ちたZの体躯。
辺りにはリス、たぬき、ハクビシンなどの野生動物だけが静かにZを見守っていた。
その光景を遠目に眺めたている男。
ノーベル財団のマスコキ.アリ氏であった。
「見つけた...」
彼はそう呟き、Zへと歩み寄る。
「モ…モン…」
息も絶え絶えなZに、アリが4リットルのいいちこをぶちまけると、彼はゆっくりとその身を起こす。
アリ氏は静かに語りかけた。
「君を、ノーベル賞の候補にしたい」
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27
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靴下
SonySOL22
02/06 10:57
長身のシャクレた秘書を連れて現れたノーベル財団のアリ氏。その発言にZは驚きを隠せなかった。
『ノ…ノーベル賞…?』長時間のストロークにより折れた鎖骨を庇いながらZは立ち上がった。
一時期ソープ街を賑わせたアリ氏は知っていた。彼が第三次福間戦争を沈静化させた男だということを。
『いや、まあ…うん』
しかしZはうつむき何やら困った様子にもみえた。
Zがこの街に来たのはある目的があった。
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28
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一発
iPhone ios11.0.3
01/16 00:11
Zとの出会いから早5年、アリ氏はおよそ3万7千年ぶりに開催が決まったノーベル賞の舞台袖にいた。
かつての居住区広場を改築した会場の内外に集まった人また人。
アナウンスが大音量で告げる。
「皆さま、お待たせいたしました!いよいよ3万7千年ぶりのノーベル文学賞および平和賞、ならびに特別歌唱賞の受賞者の発表です!」
歓声とも怒号ともつかないような人々の叫びが会場を揺らした。
そして誰ともなく「Z!O!NO!Z!O!NO!」とコールが沸き起こる。
この会再興の立役者アリ氏は先刻から慌ただしく主催側のマネージャーとやりとりをしていた。
「Zはまだか?」
アリ氏は恐る恐る舞台袖から会場の様子を伺うと言った。
「それが、まだ連絡もなにも…あっ!!」
マネージャーがそう言うと手のひらの上に映し出されたホログラム式端末に届いた文字に目を通す。
「あん?誰?Z?見せろや!」
バリったアリ氏はマネージャーの手をもげるほど自分の方にねじりその内容を見た。
そこにはこう書かれていた。
「先約があるのでいけません」
「ほぁ」
その場に崩れ落ちるアリ氏。
マネージャーは端末を一頻り操作すると言った。
「このZからのメッセージ、古代の折りたたみ式ケータイから送られてきているようです!発信元は、、、せ、世界!?」
その頃巨大宇宙船「世界」の一室で地球の様子を見下ろす二つの影があった。
「まるでゴミのようだ」
「そうだな」
「ワシらが夢見た未来とはこんなものかね」
「いいや」
「やり直しかのぅ」
「何回目だ?」
「そうさなぁ…」
その時二人の背後にもう一つの人影が現れた。
「おや、君か」
言葉を掛けられた影は答えない。
「ふむ、また君の力が必要だよ。そうさなぁ、今回の崩壊が始まったあの場所がいい。あれは確か…」
「桜島」
影は答えると部屋から出ていった。
再び二人になった一室では暫しの沈黙のあとこんな会話が続いた。
「ワシと竜ちゃんどっちにする?」
「いずれ分かるさ」
大江戸大河〜SF編〜
完
次回、大江戸大河〜黎明編〜
お楽しみに!
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