アリス・ギア・アイギスVSメガミデバイス
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プラネテューヌ親衛隊
2019/01/22/17:37
ーーー2018年。
世界は平和であるとは言え なかった。
戦争を行っている国もある し、毎日のように殺人や事 故で人が死ぬニュースが報 じられる。
それでも、吾妻楓はそれと は無縁の平和な生活を送っ ていた。
大好きな家族と友人に囲ま れて、毎日が幸せだった。
ーーーこの時までは。
平和だった東京の風景は様 変わりしていた。
瓦礫となったビル。
火の海となった街。
そして、血眼になって逃げ る人達の悲鳴。
六歳の楓には、突然起きた 事態に目の前で何が起こっ ているのか理解できていな かった。
ただ空を見上げるーーー空 を割って、人類を脅かすそ れは降り注いでいた。
[SC-02J]
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プラネテューヌ親衛隊
2019/01/27/09:07
「ここは私達が引き受けます。皆さんは早く避難を!」
楓が避難を訴える。
人類の希望であるアクトレスが来たことで、人々の不安が和らいでいった。
迅速に地下シェルターへと避難をする。
「……皆さんの避難は完了しました」
全員が避難するのを見届けた楓が言う。
「よーし、じゃあバンバン倒しちゃうぞ!」
赤毛のショートヘアーの少女。日向リンが片腕をブンブンと振り回す。
「……待ちなよ、リン」
「え〜……何で?」
リンを止めたのは小鳥遊怜という青い髪を一つ括りにした少女。
怜に呼び止められてリンが口を尖らせる。
「あれを見なよ。ヴァイスが増えてる」
「……え?」
半信半疑な眼差しでヴァイスの方向を見たリン。
怜の説明されたように、空間が歪んでそこからヴァイスが次々と溢れていた。
「おわっ! ホントーだ!」
「でしょ、無闇に突っ込むのは得策じゃないよ」
「大丈夫大丈夫、小型ばっかりだからバーンと派手にぶっ飛ばそう!」
「……話を聞きなよ」
全く忠告を聞き入れないリン。怜は肩を落とした。
「リン。相手が小型だといえど油断してはいけませんよ。どんな相手でも全力を持って挑まねばなりません」
「おー。さすが楓。話がわかる〜」
「いや、楓さんはリンを止めようとしてるんだけど……」
「……」
戦闘前というのに気が緩い会話が行われている。
楓は二人のやり取りを口元を緩ませながら見ていた。
この二人とは長い間。チームとして共に戦ってきたから安心して背中を預けられる。
それだけではない、この何気ない会話も普段通りで気が安らぐ。
気が安らぐというのは戦闘への緊張を消し去り冷静な判断で戦闘がに挑めるということだ。
だからリンが話を聞かないとしても楓は怒らないのだ。
『三人とも、聞こえてる』
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プラネテューヌ親衛隊
2019/01/27/09:07
女性の声が三人の頭部に付けられた耳飾りから聞こえてくる。
二人は会話をピタリ、と止めた。
「はい、聞こえてますよ。薫子さん」
楓は頭に付けられた耳飾りに触れながら応答する。
これはただの飾りではなく遠く離れた成子坂製作所と連絡を取る為のヘッドギア型通信装置なのである。
仕組みは成子坂製作所の通信装置から発生した電波を受信してヘッドギアに内蔵されたスピーカーから音声を流しているのだ。
このヘッドギアのおかげで戦いの中でも作戦指令室にいるオペレーターが指示を送る事によってアクトレスは臨機応変に戦えるようになる。
もちろん、アクトレス同士の通信も可能だ。
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2019/01/27/09:07
『その周辺は住宅が多い。ヴァイスの攻撃による被害を防がなければならない。南の方角に使われてない廃工場があるの。そちらに移動してから戦闘を開始して』
「わかりました。では、目標地点まで後退します」
『ありがとう。あなた達が無事に帰ってくるのを祈っているわ』
相手側からの通信が切れた。楓はヘッドギアから手を下ろす。
「これより戦闘を行います。南の廃工場にヴァイスを誘い込んで一気に仕留めましょう」
「わかったよ。で、リンはちゃんと理解できた?」
「後ろに下がって、広い場所に到着したらズドーン! と一気に蹴散らすんだよね」
リンが親指を立ててはにかむ。
怜が苦笑まじりに「上出来」と、答えた。
「戦闘ーーー開始です!」
瞬間。楓の右手に光が弾けた。
何もなかった空間に長身の銃が現れた。
楓はグリップを握るともう片方の手で銃身を支える。
アリスギアにはヘッドギアを含めると四つのパーツによって構成されている。
その一つがウェポンギア『ショット』
名前の通りにアクトレスが使う射撃武器だ。
『ライフル』『デュアル』『バズーカ』『スナイパー』の四系統に分類されている。
楓が使用しているのは最もバランスの取れた『ライフル』
更に楓専用にチューンアップされた代物を使っている。
その名も『ヤシマ』楓はトリガーを引くと銃口から粒子エネルギーが発射される。
しかし、その一発はヴァイスに当たらなかった。
何故なら今の射撃は威嚇目的で最初から当てるつもりはなかったからだ。
敵からの攻撃を受け、ヴァイス達は楓を敵と認識する。
こちらへ向けて移動を開始した。
「来ました、移動を始めましょう」
三人が後退を始めた。ヴァイスはスピードを上げて追跡してくる。
「楓、あいつら結構速いよ!」
「なら、こっちも速度を上げましょう!」
アリスギアに搭載されたスラスターの出力を上げて加速しながら上昇する。
住宅街に被害を出さないように高度を上げたのだ。
ヴァイスとの距離が徐々に離れていく。
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2019/01/27/09:07
「ねーねー、到着までにどれくらいかかるの〜?」
『あともう少しよ』
リンがオペレーターと通信している。
聞こえてくるのは、先程の女性ではなく別の少女からのものだった。
『リンさん、見えてきましたよ』
また別の少女の声が目標地点が近くにあると告げる。
三人の視界に人気のない古びた工場の姿が確認された。
「見えた。反撃開始だね」
「はい」
三人が目標地点に到着。急停止して振り向く。
「行くよ、リン!」
「OK!」
怜とリンが専用のショットギアを顕現させて、その手に握る。
「ドッカーーン!」
リンが擬音系の叫びを上げながらトリガーを引く。
砲口から特大の粒子エネルギーが発射された。
粒子がヴァイスに接触すると爆発を起こして周囲のヴァイスも巻き込む。
「……私も!」
怜もリンの攻撃に続いた。
砲口から、リンのショットギアと同等の粒子が発射される。
これも被弾すると爆発を起こして複数のヴァイスを撃破する。
二人のショットギアの系統は『バズーカ』
威力と攻撃範囲に優れた広範囲遠距離武器だ。
リンが『サーメートサーブ』怜が『グシスナウタル』という自分の性能に合わせたものを使用している。
「吾妻楓……参ります!」
二人の攻撃でヴァイスの群れは大きく削られた。
楓が突貫していく。ヤシマを消して次に呼び寄せたのはアクトレスが近接戦闘を行う際に使用する『クロスギア』という接近戦用兵器。
楓の手に新たに顕現されたクロスギア『薄緑』は日本刀の形状をしていた。
「てやぁっ!」
薄緑を真上から振り下ろす。
薄緑の刀身は接触と同時に光粒子を発生させてあらゆるものを断ち切る。
「はあっ!」
一体目を倒してすぐに切り返し、二体目を斬る。
楓は流れるような動きで次々とヴァイスを撃破していく。
「やっぱ、接近戦やってる楓はかっこいいね〜」
「当然だよ。幼い頃から剣道をやってるんだから、今も昔もあの人は努力を怠らない。あれ全部特訓の賜物だよ」
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2019/01/27/09:08
楓は高名な剣術道場の師範の娘である。
小さな頃から厳格な父に剣術を教わっていた為に接近戦は楓の得意分野なのだ。
「まあ、それでも危ないところはあるけどね……」
怜はグシスナウタルの砲口を楓の後方に向けた。
ヴァイスの一体が楓に迫っている。
怜がトリガーを振り絞ってグシスナウタルが粒子エネルギーを発射。
ヴァイスの撃墜に成功した。
距離と威力を調節していたので楓が爆発に巻き込まれる事はなかった。
「楓さん、後方に注意だよ」
「怜ちゃん、ご支援ありがとうございます!」
礼の言葉を口にしながら楓は次々とヴァイスを両断していく。
「リン、私が援護するから楓さんと一緒に蹴散らして」
「待ってました!」
リンが強気な笑みを浮かべる。
サーメートサーブを虚空に消して代わりにリン専用のクロスギア『ダイアゴナルストライカー』を呼び出した。
この武器は『ハンマー』で破壊力だけなら楓の薄緑を凌駕している。
「ぬおおおおおっ!」
ダイアゴナルストライカーを掴んでリンが敵陣に特攻。
豪快に振り回してヴァイスを叩き潰す。
「リン、一気に決めましょう!」
「わかった!」
楓とリンのコンビネーション攻撃と怜の援護でヴァイスが壊滅寸前にまで減らされていく。
『みんな、中型ヴァイスが現れる。気をつけて!』
戦闘が終わりに近づいた頃にオペレーターから通信が送られてくる。
戦闘区域の空間が歪み、そこから一回り大きい人型のヴァイスが出現した。
「こんな時にヴァイスワーカーですか……」
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プラネテューヌ親衛隊
2019/01/27/09:08
楓の表情が険しくなる。
ヴァイスワーカーとは、中型サイズのヴァイスの総称。
小型ヴァイスとは比べ物にならない戦闘力を誇る。
複数のバリエーションが確認されており、今回現れたのはライフルと長剣を装備したノーマルタイプだ。
ヴァイスワーカーは出現するなり、小型ヴァイスと戦闘しているリンに向けて発砲した。
「どわっ!」
リンに粒子エネルギーが被弾して姿勢が崩れる。
だが、衝撃を受けた瞬間に球場のエネルギーフィールドが彼女を包んだ。
市民をヴァイスの攻撃から守ったのと同じものだ。
アリスギアは自動で次元を遮断するフィールドを展開して装着者を守る。痛みや衝撃はあるものの、この次元遮断フィールドのおかげでアクトレスは怪我をする心配がな
「やったなこのっ!」
スラスターで姿勢を制御したリンがヴァイスワーカーに向けて突進する。
ヴァイスワーカーは後退しながら迫るリンを撃つ。
「リン、踏み込み過ぎてはいけません!」
楓が制止の言葉を投げ掛ける。
遮断フィールドで致命傷は受けないにしても万能ではない。
遮断フィールドにはHPが設定されている。
それが0になってしまったら戦闘不能になり、成子坂製作所に強制転送されてしまう。
HPの数値は個人差があって三人の中でリンが一番高いが、いくら数値が高くても攻撃を受ければ減少していく。
「ふんがー!」
楓の言葉を聞かずにリンは懐に飛び込んでダイアゴナルストライカーでライフルを破壊し、ヴァイスワーカーを大きく吹き飛ばした。
「やったぁ!」
『やったじゃないわよっ!』
「おおうっ!?」
オペレーターの怒鳴り声が届けられて驚くリン。
『あんた……あれだけ無茶な戦いは控えろって磐田さんに言われてたでしょ!』
「いや、でも倒せたじゃん?」
『……帰ったら怒られるわよ』
「……」
リンが黙る。
額から汗がだらだらと流れ落ちている。
どうやら磐田という人に怒られるのを恐れているようだ。
「全く……何をやってるんだか……」
リンの無事を確認しつつ、怜は肩を竦めた。
「あ、あの……まだヴァイスワーカー生きてますよ」
別のオペレーターの声が届けられる。
リンの強力な一撃を受けてもヴァイスワーカーはまだ動いていた。
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2019/01/27/09:09
「リンの一撃でも動けるとは……やっぱり小型とは違いますね」
言って楓は薄緑を消して再びヤシマを呼び出す。
「リン、怜ちゃん。同時攻撃で一気に勝負を決めます!」
「了解! リン、聞こえたよね?」
「もちろん!」
リンは再度、サーメートサーブを召喚してグリップを握り締める。
リンと怜はトリガーを強く押し込んで粒子エネルギーをチャージする。
二人の持つバズーカの砲口が唸りを上げる。
「……私も」
楓も一撃の威力を高める為にエネルギーをチャージする。
だが、ライフルはバズーカと比べて威力が低い。
楓は加えてある兵器を発動させた。
アリスギアの一つ、アクトレスの身体を包む機械の鎧『ドレスギア』
楓が使おうとしているのは上半身に装着される『トップスギア』だ。
トップスギアはアクトレスの両腕、そして装着者に付き従うように背面に浮いているギアの事を指す。
楓の装備しているドレスギア『源九郎』
その背面に滞在しているひし形のギアが可変して砲身が姿を現す。
「こちらは準備できました」
「こっちもいつでも大丈夫だよっ」
「二人とも、ヴァイスワーカーが仕掛けてくるよ!」
ヴァイスワーカーが長剣を構えて加速してくる。
「二人とも、いきますよっ!!」
二人は無言で頷いた。
同時にトリガーを押し込む。
三人のショットギアから溜め込んだ粒子エネルギーが一斉に勢いに乗せたヴァイスワーカーへ向かっていく。
リンと怜が放った粒子は特大サイズになり、楓のは何本の粒子が飛んでいく。
更に楓の源九郎に搭載された砲身『雲珠桜』から放たれたホーミングレーザーが正確にヴァイスワーカーを貫く。
すべての攻撃を受けてヴァイスワーカーは爆発した。
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2019/01/27/09:09
◇
成子坂製作所作戦指令室に備えられた多数のモニターには、楓達が勝利する映像がハッキリと映し出されていた。
「三人とも、お疲れ様」
耳にインカムを装着した女性が三人に語りかける。
その声は楓達に指示を出していた女性と同じだ。
山野薫子。出張中の隊長に代わって成子坂製作所へ出向を命じられた東京現役最年長のベテランアクトレスだ。
「目標は全て撃墜したわ。帰還してゆっくり休んでちょうだい」
『そだね。早く小結さんのご飯食べたーい!』
映像に映るリンが大きく背伸びをした。
「あんたは先に磐田さんに説教されなさい……」
『ええ〜……あたし頑張ったのに〜』
肩を落としてリンのテンションが一気に下がっていく。
「お、お姉ちゃん……リンさん頑張ったんだから……」
「それとこれとは話が別でしょ。この間アリスギアを破損させたばかりなんだから、少しは反省してもらわないと」
座席に腰を落として会話をしているのは、顔が瓜二つの少女二人だ。
琴村朱音と琴村天音の双子の姉妹。
強気でつり目の方が姉の朱音でたれ目で大人しいのが妹の天音だ。
「朱音さんは優しいわね。リンさんを気遣ってるんでしょ?」
「ち、違います! 誰があんな奴の心配なんかするもんですか!」
朱音は顔を真っ赤にして顔を背けて座席に背を預けた。
「わ、私はただ……さっさとヴァイスを倒して欲しかっただけ。早く凪さんのお見舞いに行きたいから……」
「なら、もう行っていいわ。二人もお疲れ様」
薫子は二人の側にやって来て、肩にそっと触れる。
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プラネテューヌ親衛隊
2019/01/27/09:09
「凪さんもあなた達の顔を見れば喜ぶわ。真理さんと杏奈さんも今、凪さんのお見舞いに行ってるわよ」
「……」
朱音が気まずそうな顔になる。
「お姉ちゃん……どうしたの?」
「あの二人に会うの……抵抗あるなぁって」
「まだ気にしてるの。二人は私達の事を許してくれたんだよ」
「そうだけど……あたし達がやった事は……」
「はい、そこまで……」
薫子が二人の会話を中断させる。
姉妹は驚いて薫子を見上げた。
「あなた達は被害者よ、そんなに自分を責めないで……」
そう言って薫子は二人の頭を撫でた。
「ちょ、ちょっと薫子さん! やめてって、子供じゃないんだから……!」
朱音が顔を真っ赤にする。天音は心地良さそうに喉を鳴らしていた。
「私からすれば、あなた達は娘のようなものよ」
薫子は手を離し、二人の身体を抱き寄せる。
「確かに……あなた達は違反を犯したわ。でも、ちゃんとそれは償えるものよ。私も成子坂のみんな。そして真理さんや杏奈さんだって、二人が償えるように協力してくれるわ……」
身体を離し、薫子は二人の顔を交互に見る。
「少しずつでいい。二人との距離を縮めていけば……わだかまりもなくなるわよ。もし躊躇しているなら、私が着いていってあげるわ」
「……はあ」
朱音は苦笑混じりに溜め息を吐いた。
「ねえ、天音。ここの人って本当にお節介よね」
「うん、でも、前の企業に比べたら断然いいよ」
「……そうね」
双子はくすくす、と笑うと薫子に向き直った。
「薫子さん、あたし達ーーー」
ウウウウウウウウウウーーーっ!
「「「っ!?」」」
作戦指令室に警告音が響く。
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2019/01/27/09:09
「この音は……二人とも、反応はどこから来てるのか調べてっ」
「やってみます!」
琴村姉妹はコントロールパネルを叩いて、アラームが警告する原因を調べる。
「……これは」
天音がモニターを見つめて驚愕する。
「天音さん、場所はどこなの?」
「楓さん達がいる場所ですっ!」
◇
『皆、気をつけて! 大型ヴァイスが来るわ!』
戦闘も終わって帰ろうとした三人だが、薫子の通信でこの場に起こった新たな異常事態に気づく。
「楓さん、リン……あれ見て」
真っ先に気づいたのは怜。
彼女達の前方の空間が大きく歪んでいる。
その大きさは今までの比ではなかった。
やがて空間が割れると共に次元の裂け目から巨大な大蛇が出現した。
「……大型ヴァイス」
楓が表情を険しくしながら呟く。
大型ヴァイスとは、小型、中型の力を凌駕しておりヴァイスの中でも特に危険な存在である。
『相手はサーペントタイプよ、皆……行ける?』
「私は大丈夫です。二人はどうですか?」
「私は問題ないよ」
「お腹減ってるけど行けるよっ!」
「薫子さん、全員行けます」
『そう。では、全力で挑みなさい!』
「「「了解!」」」
三人は行動を開始した。
現れた大型ヴァイス『サーペント』の撃破に向かう。
「サーペントは大型の中で弱い部類ですが……侮ってはいけませんよ」
「うん、まずは……あの体節を破壊しなきゃ」
怜が注目したのは、サーペントの身体に連なっている体節だ。
体節一つ一つに砲身が付いていて、そこからホーミングレーザーを射出してくるのがサーペントの主な攻撃方法だ。
「では、攻撃を開始します!」
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プラネテューヌ親衛隊
2019/01/27/09:10
三人はサーペントへの同時射撃攻撃を行う。
粒子が直撃して小規模な爆発を起こす。
「まだまだ行きますよ!」
絶えず攻撃。
何度も撃たれてサーペントの体節が破損して落下していく。
「やった! 破壊したっ!」
「喜ぶのは早いよ、サーペントは体節が多いほど手強い相手なんだから……」
「今回のサーペントの体節は二十……今まで遭遇した中でも一番多いです」
「体節が多ければ、砲台の数も多くなって攻撃も激しくなるんだよ。アクトレスになった時に説明受けてたでしょ」
「そんなのわかってるよ。何度も戦ってるんだから〜」
と、会話をしながらサーペントに攻撃する三人。
だが、その時……サーペントが急旋回をして、各部の砲台の先端が光った。
「攻撃がきます!」
楓が攻撃の呼び動作に気がついた。
サーペントの砲台から一斉に粒子が放出される。
「うわっ! 数が多い!」
「くっ……!」
攻撃の手を止めて三人は高速で飛んでくる追尾レーザーを回避していく。
空を泳ぎながら砲撃するサーペントの姿はさながら戦艦のようだった。
降り注ぐ粒子の雨で周囲の建物に被害が出ていく。
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プラネテューヌ親衛隊
2019/01/27/09:10
「うわわっ! このままじゃ街が破壊されちゃう……ここは一気に接近してあたしが決めるっ」
「リンっ!」
「え?」
怜が叫んだ。その理由はサーペントが口を大きく開いたからだ。
サーペントの開かれた口から真紅に発光する光弾が発射される。
「おわぁっ!」
リンはギリギリ避ける。光弾は高速で飛んでいき、遥か後方に聳えていたスカイツリーに直撃する。
『天音さん、スカイツリーの損傷度は!』
『三十%です。まだ持ち応えられます!』
ヘッドギアから血相を変えた薫子と天音の声が聞こえてきた。
「ご、ごめん……」
「スカイツリーの強度は10年前より強化されてます。あのくらいでは倒れません。それに中にいた人も全員シェルターに避難してると報告が上がってます。どうか自分を責めないでください」
「楓……あんがと!」
リンが元気を取り戻した。
「けど、楓さん。昔より建造物の強度が上がっても、何度も攻撃を受けたら壊れちゃうよ」
建造物を守る為に怜は自らを盾にする。
十年前。世界を救った女性から放たれた光は建造物をも強化していた。
並大抵の衝撃ではヒビも入らないが、ヴァイスの攻撃を続けざまに受けていてはすぐに限界が来てしまう。
「そうですね。こうなったら……」
ヤシマで反撃をしながら、楓は覚悟を決める。
「薫子さん、聞こえますか!」
『楓さん? 何?』
「SPスキルの発動許可をお願いします」
『……っ』
薫子の息を飲む声が聞こえてくる。
数瞬。沈黙が流れたがすぐにヘッドギアから薫子の声が響いてくる。
『はい、許可します』
「ありがとうございます」
『楓、SPスキルを発動させる余裕はあるの? アンタ達は攻撃を避けるので手一杯じゃないの』
朱音に指摘される。楓達はサーペントの猛攻を回避するのに専念していて、中々反撃に移せないでいた。
「問題ありません。作戦があります」
「それって、あたし達に時間を稼げって事かな?」
「なら、さっさと行くよ」
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2019/01/27/09:10
「オーケー!」
二人の会話を聞いていたリンと怜が理由を聞かずに、楓の考えを理解して行動に出る。
長い間共に戦ってきたからこそ、何も言わずに伝わるのだ。
「リン、私が援護するから懐に飛び込んで」
「まっかせて!」
ホーミングレーザーを避けつつ二人は前進。
怜が隙を見て砲撃し、少しずつ砲台を破壊していく。
「今だ、飛び込んで!」
「待ってました!」
砲台の数が減ったことによって攻撃の手数が減少。リンは口角を上げてスラスターを全開で飛び込む。
「いっくぞー!」
リンのトップスギアが変形。巨大なアーム型の兵器『ヒートアーム』となる。
「おりゃあっ!」
ヒートアームが拳を固めてリンの動きに合わせて駆動する。
豪快にサーペントの体節を殴り破壊した。残るは後十三。
「さすが二人です。私も準備に取りかからなくては……」
『楓、今から送るわよ』
朱音の通信と共に次元の壁が発生し、そこから巨大なランチャーユニットが出現する。
「朱音さん、ありがとうございます」
楓がランチャーユニットに向かって駆ける。
お互いに距離を詰めていくとランチャーに取り付けられたスラスターが分離して速度を落としていく。
タイミングを見計らって楓はランチャーのグリップを掴んだ。
楓の両手にずっしりとした重厚な砲撃兵器が収まる。
SPスキルとは、アクトレスが一人一人持つ最強の武装をそう呼ぶ。
その威力は大型ヴァイスを一瞬で消し去る。
周囲の建物にも被害が出てしまう為、使用するには隊長の許可が必要となるのだ。
「リン、ここからでは周囲の建物に被害が出ます。サーペントを空に投げてください!」
「わかった!」
楓の指示を受けてリンはサーペントの体節をヒートアームでガッチリと掴んだ。
「ふんがー!」
その場でぶんまわし、その勢いのままサーペントを遥か上空へ投げ飛ばした。
「全力でお相手致します」
ランチャーを構え、砲身を上空のサーペントに向ける。
「どうか……お覚悟を!」
ターゲットサイトにサーペントの姿が重なった。
楓がトリガーを押し込む。
ランチャーの先端が激しい雷を帯びると粒子が発射された。
その速度は凄まじく、放たれた瞬間に光速に達して一瞬でサーペントに到達した。
身体を貫かれ、文字通り瓦礫となったサーペントが地上へ落下していく。
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2019/01/28/06:16
ヴァイスの戦闘から数時間は経過していた。
シェルターに避難していた人達は地上へと戻り、元の生活へと帰っていった。
「……」
数人の男達が戦闘によって破壊されたヴァイスの残骸を運んでいる。
彼らはAEIGSの技術開発部の者達だ。
彼らはヴァイスのパーツを回収し、新たなアリスギアの開発や住宅。施設の修理と強化等を行っている。
今やヴァイスは人類の敵であり、人類が生活する上で必要な資源となっているのだ。
大型トラックに残骸が積まれている様子を、白髪混じりの男が煙草を加えながら見つめている。
男の名前は権田源三郎。今年で還暦を迎えた刑事だ。
「権田さん!」
権田の名前を呼ぶ三十代の男性が駆け寄ってくる。
男の名前は竹田。権田のパートナーで新米の刑事だ。
「おう。どうした?」
「どうしたじゃないですよ……いきなりいなくなるんですから……」
竹田は走って乱れた息を整える。
「で、ここで何を?」
「……あれだよ」
権田が顎で運ばれているヴァイスの残骸を指す。
「ヴァイスですか?」
「ああ……情けねえ話だよな。大の大人が子供に守られるってのがな……」
「それは仕方ないですよ。アリスギアを動かせるのは女性しか出来ないんですから」
「それはわかってら……だが、本来大人は子供を守るべき義務がある。子供に戦わせるってのは……今でも府に落ちねえ」
権田は携帯していた拳銃を手に取って視線を落とす。
「俺らにも、対ヴァイス用の武器を支給してくれないかね……そうすりゃ、支援なりしてやれるんだが……」
「それは無理ですよ。今は新しい兵器を作ってるんですから、こっちにまで手が回らないですよ」
「新しい兵器? アリスギアじゃねえのか……?」
「ニュース見てないんですか……戦闘用自立型アンドロイドですよ」
「な、なんだそりゃ……」
権田は眉間に皺を寄せると元々厳つい顔が更に厳つくなる。
「ニュース見てないんですか……」
「俺は日頃テレビを付けないんでな」
「何の為に買ったんですか……」
竹田は肩を落とした。
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2019/01/28/06:16
「まあ、分かりやすく言うと戦闘用ロボットですよ」
「戦闘用ロボット……おいおい、とうとうロボットまで出てきちまったよ……」
権田は更に顔をしかめた。
「ヴァイスがいるのに今更ですよ、そういった反応」
「そうだな。今はアクトレスや魔法少女。それに重力ウサギなんてのもいるんだからな……」
権田は咥えた煙草を指で摘まみ、煙を吐き出す。
この世界にはヴァイスと戦う存在がまだいる。
魔法少女と重力ウサギと呼ばれる存在だ。
魔法少女は目撃例があるが何故か姿を見ても顔が思い出せないと言う。
そしてもう一人……重力ウサギというのは、ウサギのコスチュームに身を包んだヒーローだ。
彼女は『ラビットガール』と名乗り、ヴァイスのみならず。街に蔓延る悪と戦っている。
「そういえば……また魔法少女が出現したみたいですよ」
「またか……何者なんだろうな」
「ヴァイスを倒してくれるなら味方でしょ。それより……権田さんの『相棒』も今回活躍したんですよね?」
「ああ、あいつなら……今日もヴァイス退治に出たみたいだぜ」
権田は携帯電話の画面を見せる。そこの着信履歴に『ラビットガール』の文字が映し出されていた。
◇
東京のとあるビル。
その屋上に全身にフィットしたウサギのスーツを着ている少女が立っている。
顔は覆面で表情が見えないが、東京の街を見下ろしているようだ。
「誰かー! 泥棒っ!」
どこからか女性の叫び。
どうやら、窃盗があったようだ。少女は声があった方向を捉えて手摺に身を乗り出す。
「さてと……皆の所へ戻る前にもう一仕事しようかなっ!!」
そう言って重力ウサギ『ラビットガール』は、手摺を勢いよく蹴り飛ばし、大きく跳躍した。
◇
成子坂製作所のシャワールームで楓は戦いで流れた汗を落としている。
(……今回の戦闘。私がうまく立ち回れていれば被害は出さずに済んだ筈)
楓は、シャワーを浴びながら今日の戦闘の反省をしていた。
濡れた髪から水滴が伝わり、程よくメリハリの着いた楓の身体に沿って流れていく。
「もっと精進しないとっ!」
「楓さんっ!」
「っ!?」
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プラネテューヌ親衛隊
2019/01/28/06:16
裸の少女が扉を勢い良く開けてシャワールームに侵入してきた。
楓はビックリして後ろを振り向く。
「ど、どうしたんですか?」
少女は、楓の知り合いだった。
楓より背が低く、薄い桃色のショートヘアーの少女はぐいぐいと接近していく。
「お背中流しに来ました!」
にっこりと微笑む少女の手にはボディーソープが握られている。
「いや、その……大丈夫ですよ……」
「いえ、やらせてください!この比良坂夜露、楓さんの弟子として楓さんの背中を流したいんです!」
鼻息を出しながら、比良坂夜露と名乗る少女はやる気にみなぎっていた。
彼女は最近成子坂製作所に配属となった新米アクトレスで、楓に憧れを抱いている。
まだ頼りない所はあるものの、その潜在能力は高く。楓も実力は認めている将来有望なアクトレスだ。
「い、いえ……自分でやれますから……」
「ご遠慮なさらずにっ!」
夜露は楓からスポンジを奪い取り、強引に後ろを向かせて背中を洗い始めた。
「ひゃっ! よ、夜露ちゃん、そ、そこはくすぐったい……!」
「この際だから他の部分も洗いますよ」
「趣旨が変わってますよっ。ひゃあっ!!!!」
背中どころか他の部分まで洗い始めた夜露。
真面目でいい子なのだが、変に楓を崇拝して思いがけない行動を取ってしまい、楓を驚かす事が多々ある。
「ここですか? ここがいいんですか楓さん?」
「や、やめてえええええええええっ!」
楓の悲鳴がシャワールームに響いた。
「……幸せ」
ちなみにシャワールームは個室になっており、隣でシャワーを浴びていた二子玉舞が鼻血を流していた。
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2019/01/28/07:23
◇
「何、どうしたの……?」
成子坂製作所の事務所で長い黒髪の眼鏡をかけた少女は首を捻っていた。
彼女は百科文嘉。楓。夜露よりも長く成子坂製作所に所属しているアクトレスだ。
文嘉も別の場所に出現したヴァイスの迎撃に向かって、今帰還した所なのだが、妙にげっそりとした楓を見て何があったのか側にいた夜露に質問している状況だ。
「私は楓さんの背中を流しただけっすよ」
「……お嫁に行けない」
「……普通に背中流したら、こうはならないでしょ」
真っ白に燃え尽きた楓を目の当たりにして、文嘉は汗を垂らす。
そして、視線はこの場にいるもう一人に向けられた。
「舞さんは何か肌色いいけど……」
「……ふふ」
この世の幸福を全て受け入れたように顔が緩んでいる少女がいた。
長身で脚が長く。菫色の髪を一つ括りにしている。
彼女が楓達の隣のシャワールームにいた二子玉舞本人である。
「夜露ちゃん!」
「はい。何です?」
「ありがとう。本当にありがとう!」
舞は夜露の手を自身の手で包んで言った。夜露は何をお礼されているのかわからなかった。
「よくわかんないですが、お役に立てて嬉しいです」
「なんなのこれ……」
状況が全く読めないと、文嘉は頭を押さえた。
「あれ、ところで……シタラさんはどうしました?」
舞と手を離し、夜露が尋ねる。
シタラとは、文嘉と同期の先輩アクトレスだ。
「シタラなら、新作のゲームがあるって急いで帰ったわよ」
「シタラさんらしいですね」
と、夜露は苦笑した。
それと同時に文嘉は溜め息を吐き出す。
「どうしたんですか?」
「こっちの戦闘で現れたのよ。重力ウサギが……」
「重力ウサギですかっ!」
楓が復活した。
「ええ、三ヶ月前に現れた覆面ヒーロー『ラビットガール』彼女は何者なのかしら……」
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2019/01/28/15:07
「何者って、正義の味方ですよ」
「本当にそうなのかしら……覆面してるから表情わからないし、怪しいわ……」
文嘉は腕を組み、頭の中でラビットガールの姿を思い浮かべながら率直な感想を言った。
「そんな事で疑ってるんですか! あんまりですよ!」
少しムスッとした夜露が反論する。
実はラビットガールのファンだったりする。
「楓さんからも何か言ってください!」
「……」
夜露は尊敬する楓から意見を聞きたかったが、楓は目を泳がせていた。明らかな動揺である。
「あの、楓さん……どうしたんです?」
「え、えっと……何でもないです……」
楓は適当に誤魔化した。視線を文嘉に向けて口を開く。
「あの、覆面が駄目なら……遮梛仮面はどう思ってます」
「遮梛仮面……ああ、あの狐の仮面を被った……」
文嘉は思い出す。もう一人似たような悪を断罪する遮梛仮面という存在を……。
「あれこそ怪しいわよ。狐の仮面被ってる時点で怪しいわ……」
「ぐっ……」
楓は片膝を着いて崩れ落ちた。
「か、楓さん! どうしたんですかっ!?」
「大丈夫っ!?」
「へ、平気です……」
何があったのかと夜露と文嘉が心配する。
楓は自分の力で立ち上がる。心なしか少し落ち込んでいるようだ。
「何か……ショック受けてるような気がするのだけど、気のせい?」
「……気のせいです」
「でも、遮梛仮面を非難したら……え、もしかして遮梛仮面って……」
「っ!?」
楓は心臓が飛び出そうになった。
何を隠そう遮梛仮面とは、悪党を懲らしめる為に変装した楓本人なのだから。
「何を言ってるんですか! 楓さんは遮梛仮面じゃありませんよっ!」
夜露が楓を庇ったが、
「あんな怪しい仮面を被った変質者と楓さんを一緒にしないでくださいっ!」
「ぐはっ!」
手痛いダメージを受けた。楓を慕う夜露からの一言だから余計に心に刺さる。
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2019/01/29/05:21
「うわぁっ! 楓さんどうしたんですかっ!」
「い、いえ……お気になさらずに……」
わかっている……夜露が悪気があって言っていない事は、ただ純粋な彼女にストレートに言われると心に来るものがある。
楓は心配させまいと平常を装った。
「あ、あの……」
ここで、しばらく口を閉ざしていた舞が喋った。
元々、人見知りで引っ込み思案の彼女は口数が少なく、先程の話題に着いていけなかったから会話に参加出来なかったのだが、とある事に気がついて勇気を出して会話の輪の中に飛び込んだのだ。
「夜露ちゃん……お客さん、来てる……よ……」
舞はたどたどしく用件を手短に応えた。
加えて、出入口付近に指を向ける。
そこには楓や夜露と同年代くらいの制服を着た少女が立っていた。茶髪のポニーテールに整った顔立ちからは活発そうな雰囲気が漂う。
そんな彼女は何やら不機嫌そうに頬を膨らませながら仁王立ちしている。
「もう、夜露ちゃん! いつまで待たせるの!」
「あ、そうだ。あおさんの事をすっかりと忘れてましたっ!」
夜露は大事な用事を忘れていた。
目の前に立つ少女は夜露の知り合いで名前は源内あお。
夜露だけでなく、成子坂製作所に所属するアクトレスは全員彼女と面識がある。
何故なら、彼女もアクトレスではないものの成子坂のメンバーの一人なのだ。
「君、ひっどい事をさらっと言うね……」
自らの存在が忘れられて、あおは口をアヒルのように尖らせた。
夜露は頬をぴくつかせながらこめかみを掻く。
「あおさんと待ち合わせをしてたんですか?」
「はい、あおさんが素敵な喫茶店を見つけたそうで一緒に行こうって話だったんですが……ヴァイスが現れたんでここのシェルターに避難してもらってたんですよ」
「そうだったんですか」
「あ、良かったら楓さんも行きます。その喫茶店」
「よろしいのですか、お邪魔じゃ……」
せっかく二人で約束をしていたのに、自分も同行したら邪魔ではないかと感じた楓にあおは微笑んで口を開いた。
「構わないよ。楓さんなら全然OK! 文嘉さんと舞さんも来る?」
さりげなく文嘉と舞も誘うあお。二人は一瞬だけ視線を合わせると再び戻して首を振った。
「今回は遠慮します。仕事が残ってますから、また今度誘ってください」
「私も……新作を描くのに……忙しい、から……」
「そっか、そっか。なら仕方ないね。じゃあ、三人で行こう!」
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プラネテューヌ親衛隊
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プラネテューヌ親衛隊
2019/01/29/05:21
あおが、元気よく天井に向けて右手をグーにして突き上げた。
こうして、三人でその喫茶店に向かう事となる。
◇
「でさでさ、そのお店の名前が変わってるんだよ〜」
あおの案内で三人は喫茶店へと続く道を歩いている。
楓はあおの話を聞きながら、周囲を見つめていた。
楽しそうに話す女子高生。
買い物帰りの親子。
道路工事をしている作業員。
皆、いつも通りの日常に戻っていた。
今度も皆の平和が守られたのだと楓は嬉しそうに微笑む。
「楓さん。楓さんてば!」
「え、あ……何でしょう?」
「あー……やっぱり話を聞いてなかったぁ〜」
「ごめんなさい。考え事をしてて……」
周囲に気を取られてあおの話を聞いていなかった。
楓は反省するが、あおは首を横に振った。
「謝らなくていいよ。今度はちゃんと聞いてね」
「はい、で……どんな内容の話だったんですか?」
「お店の名前だよ。スッゴい変わっててさ〜。あれはキメラみたいなもんだよ〜」
「き、キメラですか……」
キメラとは複数の動物が組合わさったモンスターを言う。
よく漫画やアニメにも登場しているから、楓はそれくらいは知ってる……。
だが、お店の名前がキメラみたいとはどんな喫茶店なのかと疑問が頭から離れない。
「お店の名前。どんな名前何ですか……」
「それは着いてからのお楽しみだよ〜」
軽くはぐらかされてしまった。
信号が赤になる。三人は横断歩道の手前で足を止めた。
「今日の戦闘、楓ちゃんカッコよかったな」
「ああ、まあ。俺はリンちゃん派だけどな!」
楓達の前にいる三人の男子高校生の会話が聞こえてきた。
人類にとってアクトレスはヒーローのような存在。
楓も街を歩いていると、こうした会話をよく聞くし、時に握手を求められたりもしている。
そうした人達の話を聞いていると『また頑張ろう』と、次の戦闘に挑む元気が沸いてくる。
「あの人達、楓さんの話をしてるっすね。声をかけてみたら喜ぶんじゃないですか?」
「いえ、私は……」
夜露に声をかけろと背中を押される。
応援してくれるのは嬉しいが声をかけるのは少し恥ずかしい楓は頬を赤く染める。
「何がアクトレスだ。馬鹿馬鹿しい……」
男子高校生の一人が呟いた。
「何だよ、お前アクトレス嫌いなのか?」
「俺達を守ってくれるヒーローじゃないかよ」
「ヒーロー? 本当にそうか? さっきの戦いで被害が出たんだぞ……」
この少年は他の二人と違ってアクトレスに否定的だ。
顔を歪めて友人二人を睨む。
「出たって言っても建物にだけだろ。人の被害は出なかったじゃん」
「今回は……な。でもよ、いくら建造物が強化されたからって万能じゃない。もし逃げ遅れた人がいたら命を落としてる奴もいたかも知れないんだぞ」
彼は先程の戦闘の事を言っている。
サーペントとの戦いで周囲の建物に被害が出た。
幸い、強度は上がっていたのと周囲の住民はシェルターに避難していた為に犠牲者はいなかった。
だが、そんなものは言い訳に過ぎない……被害が出たのには変わらないのだから。
「世界を守るヒーローって言うなら、もっと気を引き締めて守ってほしいよね。俺ら一般人をさぁ〜」
彼の言葉が楓の胸に重くのし掛かる。
楓は唇を噛み締めた……あのシャワールームで実感したように自分がもっと動ければ被害が押さえられたのではないかと後悔が押し寄せてくる。
楓は自分の無力を痛感していた。
ここで文句を言っていた少年は楓に気がつく。
「あ、吾妻楓……!?」
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