現代の侍
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1
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一発
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09/12 16:07
現代の侍
博多湾に流れ込む樋井川沿いを歩く
幻刀斎の姿があった。
江戸の空気に慣れた幻刀斎は絞り出すように声を出す。
「肺が洗われるようだ」
幻刀斎は先刻から思案にふけっていた。
幻刀斎はかつて江戸を襲った未曾有のバイオハザードを生き延びた手練れであったが、長い太平の年月は彼から闘争という概念を消し去った。
しかし網走で藤沢が自らの過去を思い出したのと時を同じくして幻刀斎もまた自らを思い出そうとしていた。
彼ら二人は現代社会の礎を築いた志士として、またその一国の軍事力にも匹敵するあまりに強大な力を持つ者として自らに禁忌を課した。
「技を封印する」
二人は薩摩は城山に籠もり、技を封印する術を自らに掛けたのだった。
しかし
「もはや太平の世ではない」
幻刀斎は術を破ることを決意した。
フンドシ姿になり一気に樋井川に飛び込むと、あらん限りの力を出して叫んだ。
人のみならず鬼、悪魔、三千世界に蔓延る魑魅魍魎をも殺傷するために創り出した神の技。
それを解放するための呪文を。
「マカデミ〜アッサアマーッ!!」
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イワナなし
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09/15 16:54
沈みゆく体と薄れゆく意識…
幻刀斎ははっきりと思い出していた。この芳醇な香りはキラーソックス…かつて諸国漫遊の志士として知られたスティックパンが大好物の厨川が放つ最終奥義として知られた。
しかし何故私がキラーソックスの餌食になるというのだ…厨川は遊郭で名を馳せた床上手宮パンと名乗る売女の顔面ギターネック落としの技によって息絶えたはず…。
何故…今…
意識が完全に途切れ、命の灯火が絶えようとせんその時…
幻刀斎の腕を掴むものがいた。
そして川のたもとまで引きずりあげ、霊王を吹き飛ばし叫ぶ。
「やりすぎったい!!!」
そう、霊王の天敵、そして稀代のかぶき者として知られる松石であった。厨川と松石…何かが始まろうとしていた。
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5
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一発
iPhone ios8.3
09/16 14:19
松石は霊王の胸ぐらを激しく掴む。二人が睨み合い、樋井川の時は止まった。
お互い何も言わないままその怒気だけが増していく。
ビリビリと空気が震える。
恐怖に慄いた幻刀斎はこのとき失禁している。
しかし半身が川に浸かった状況が彼を末代までの恥から救った。
ここで厨川伝七について語らねばなるまい。
かつて江戸を襲ったバイオハザードが未曾有の被害と混乱を生んだことは以前述べた通りである。
そしてその元凶こそが厨川なのである。
厨川の靴下(通称キラーソックス)から突然変異したウイルスはその感染力、増殖力共に人類がそれまで経験したものの比ではなかった。
そのウイルスに感染したものの遺伝子は著しく異常をきたし、その仕組みこそ不明ではあるが、結果的に厨川の遺伝子に置き換わる。
つまりみんな厨川になるのだ。
都市伝説では遊郭で厨川を相手にしていた女が唯一の抗体保有者であるとか。
しかし厨川もキラーソックスの行方も知るものはいない。
幻刀斎は居酒屋「ぼけ八」の座敷にて、吹き飛ばされた襖を直していた。
その向こうで松石と霊王が肩を組み仲睦まじく酒を交わしている。
「仲直りしたんだね」
襖を背にして幻刀斎は涙が止まらない。
これは…記憶…
ふと気がつくと幻刀斎は樋井川の川縁にいる。
松石と霊王は未だ睨み合っている。
項垂れるように水面を見つめた幻刀斎はそこに映った自らの姿を見て驚愕した。
「厨川になってる!?」
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6
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靴下
SonySOL22
09/17 03:58
違和感は目を疑った、水面に厨川が写っている。目を何度も擦り再びみると…私の顔だ。先程の幻覚といい違和感はどうなってしまったのか?
すると違和感はある異変に気づく。
『くせぇっ!』
汗と酸っぱさが混じり合った物凄い臭気が漂う。この臭いは!
『ご安心めされ違和感殿』
振り返ると靴下を持った男が立っていた。
厨川(ずがわ)!?
『探しましたよ。さっ、半額パン買いにいこう』
厨川はそう言うととんでもない異臭を放ちながら近付いてきた。
臭すぎておかしくなりそうだ。
程なくして違和感は自分の姿が厨川にみえてしまった理由を知ることとなる。
『これ(臭い)、 目にくるッ!』
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7
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イワナなし
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09/18 00:49
そう、厨川の靴下は長年の酷使ゆえに短時間の使用でも猛烈な異臭を放つようになっていたのだ。それは呼気3デシリットルで全身麻痺を呼び起こす悪魔の汚染。
かつて毒手拳と言われた禁忌の技と同じように…。
「南無三!」
幻刀斎はしたたか体を壁に打ちつけながらも樋井川に飛び込んだ。
鼻が曲がりそうだ…このままではおかしくなってしまう。幻覚まで見せられては自分が自分じゃなくなる、そこで敢えて自ら呼吸できぬ川中へ飛び込んであった。
「ナイス判断だ違和感…フッ」
霊王は霧のように消えていく。松石もまた、食肉加工とナンパをしながら霊王を追いかけて去っていった。
しかし違和感は気付いた。己が泳げないことに。川の流れるまま、意識は途絶えてゆく。
ハタ工藝社とハートストリングスの横を抜け、もはやこれまでかと思ったその時、違和感は突然腕を掴まれた。
その男はホチキスを手に持ち、自らの体へ突っ込み肺を体にパチパチくっつけている。
必死ーと呼ばれる生粋のミイラだ。
「プレベ…ジャズベ…」
人の心を失った必死ーのうわごと。
何故違和感を川から引きずり出したのか、その答えは彼の中に眠る、ある思い出の中にあった。
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8
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一発
iPhone ios8.3
09/18 16:35
「プレベ…ジャズベ…」
譫言のように呟き続ける必死ーはどうやらホッチキスの針を使って花占いをしているようだった。
その顔からは正気が抜けきっている。さながら死せるダチョウだ。
「プレベ…ジャズベ…プレベ……ジャズベ……」
パチリパチリと針を体に突き刺していく。
その音は次第に速度を落とす。
「プレベ………ジャズ…!ハウッ!」
その瞬間、彼の体と肺とを留めていたホッチキスの針が勢いよく四方に飛んだ。
針を体中に浴びた違和感幻刀斎は全てを悟ったように必死ーに語りかける。
「ようしようし、もう怖い人いないよ〜、ほらっ、おじさんとこおいで〜」
そう言うと優しく必死ーを抱き寄せる。
ガタガタと震え嗚咽混じりの声を絞り出す必死ー。
「僕ね、ほんとはね、ほんとはね…竜ちゃんをね…」
「竜ちゃんどした〜?ほら、言ってごら〜ん、へいきだよ〜」
「ハウッ!」
信じられない事に必死ーの肺は一気に膨れ上がり、瞬く間に彼を乗せ空に浮かんでいく。
「カンバーーっす!」
そう言うや否や必死ーは空中で大爆発した。
それを呆然と眺めていた幻刀斎は思わず声を出す。
「キレイ…」
大爆発を地上から眺めていた工藝社の人員の中で一際目立つ男が、指を差しながら笑っていた。
「うける〜っ」
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9
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イワナなし
iPhone ios8.4.1
09/18 19:54
高らかに笑う男。
彼はかつてギターレジェンドと呼ばれた「れのんパパ」だった。ちなみに「かれんパパ」でもある。
彼の高らかな笑い声は人を笑顔にする、それと同時にワウペダルに合わせて顎を上げ下げしてしまうという弊害もあった。
れのんパパは大濠公園花火大会の設営をサッとすますと小汚いジーンズを履いてジョンを召喚した。
ジョンもまた、ドラムレジェンドとよばれた男である。
こんな話がある。
ジョンには大きな弱点があった。何事も盲信する悪癖があったのである。
布団の押し売りを行いながら社畜となったジョンは発狂したのか場もわきまえず、突如現れた小宇宙に暴言を放つ。
「目の前がドラマーばっかりで緊張しました?」
これには同席したEDも思わず勃起。瞬時の判断で立ちバックをレンタルしたはいいものの、同級生である女性店員にこれまた即座に見つかりA棟から「もっでなぃでず!」の絶叫と共に身を投げた。
これはたまらんとすかさず逃げ去り難を逃れたのが厨川であったのもまた、数奇な運命のイタズラと言えよう。
とはいえ今やジョンは携帯会社の求人広告に「正解を見つけた」と言わんばかりの表情で登場するほどの復活を遂げていた。
れのんパパは花火大会の設営と同じように古びたギターを即座に修理。
そしてどこからともなくワウペダルにオーバードライブをかました。
「めっさメッサブギーやけんね!カッカッカ!」
れのんパパの高笑いが全てを飲み込んで行く。
いつまでもこのような魑魅魍魎の集まりの中で自らが狂うまで待つ必要は無い!
幻刀斎はついに構えた。
「右トンボの構え」
かつて新撰組を撃退したこの構えが、坂本龍馬に憧れ続けた男に死を与えようとは誰も思わなかっただろう。
ゆっくりと、しかし素早く…
幻刀斎の脚は動き始めた…!
「キィェェェエエエエエ!シギョーーーー!」
しかし現実とは残酷なものである。
幻刀斎が切ったのはマーカスミラーとのスリーオンスリーでビッグソルトが投げたバスケットボールだけであった。
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10
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一発
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09/19 00:30
ビッグソルトはバスケットボールを斬られて満面の笑みである。
「マイク、ベルナルドーー!」
片手に焼酎グラスを持ち叫ぶと樋井川の上流へと消えて行った。
レノパパは相変わらず顎を上下させている。
暫しの無音。
それを切り裂くように「あっ!」と声が上がる。
サイレントの父、バーバーである。
幻刀斎はこの状況に困惑した。
「なにこれ?」
夢と現実の境界線とは何だろう?
まさに幻刀斎は朝に現実を意識しつつみる夢のような状況に困惑したのである。
「これはきっと夢、拙者の迷いが生みし夢、ならば…」
幻刀斎は手にした刀を逆手に持ち替え川岸に正座する。
「シギョーーーー!」
自らの腹に向け刀を突き立てた。
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11
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イワナなし
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09/20 16:59
幻刀斎の刀が己の身体を貫かんとしたその瞬間…
「E取手!E取手!ちかっぱE取手!」
テレビから電気制御のデジタル取っ手のCMが流れている。
「ここは…どこだ…?」
隙間風が吹きこむ室内。
ひどく寒いが幻刀斎は布団に寝かされている。
夢…
拙者の旅路は夢うつつの世界で見た幻だったのか…?
「ようやく起きましたか、先生」
聞き覚えがある声だ。
ニイポー、ようやく会えたな。
網走のうらぶれた定食屋「番外地」に、悲しい歌が流れようとしていた。
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12
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一発
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09/23 00:34
窓がない。
密閉された畳張りの部屋には布団が一つ敷かれているだけである。
「ここは…」
起き上がろうとした幻刀斎を激しい頭痛が襲う。
蝋燭の頼りない灯りが幻刀斎の痩せこけた頬に影を作った。
「起きてはお体にさわりますぞ」
優しく幻刀斎に語りかけたのはニイポーである。
「ひどい夢を見ていたようだ…」
幻刀斎は夢の一切を覚えていた。背中を一筋の汗が伝う。そのまま布団に横になると幻刀斎は言った。
「どのくらい…?」
「およそ10年」
ニイポーは答える。
天井を見つめたままの幻刀斎。
「そんなにか…して首尾は?」
「先生が眠りについてから件の男と接触しました」
「…よくやった。奴は覚えておったか?」
「先頃思い出したようです」
「そうか…奴は今どこに?」
「下に居ります」
「!」
網走の定食屋、番外地の二階には開かずの間がある。
「兎も角、何か腹に入れねば仕様がない」
「ご安心を」
ニイポーは傍の包みから注射器を取り出すと幻刀斎の袖を上げた。
「それは?」
ニイポーは答える。
「そりゃもう最高に効くやつですよ」
言うや否や幻刀斎の静脈目掛け針を突き立てた。
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13
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一発
iPhone ios8.3
09/29 09:32
朦朧とする意識、その直後幻刀斎の脳内を多幸感が駆け巡る。
「イ…イク…」
時空を旅する藤沢竜太郎と違和感幻刀斎の時間軸は今交差しようとしてた。
しかしそれはまた別のお話。
現代の侍〜旅情編〜
完
次週、男たちの壮絶な過去が明らかになる「大江戸大河〜浪漫編〜」お楽しみに!!
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それを解放するための呪文を。
「マカデミ〜アッサアマーッ!!」