大江戸大河〜浪漫編〜
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一発
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09/30 15:55
砂埃舞う城下町を闊歩する男一人。
その男は目を細めながら通りの真ん中を大股で歩く。
身の丈六尺余りの体から伸びた腕を袖の中に折り畳むようにしている。
かつて人斬り竜ちゃんとして恐れられた藤沢竜太郎その人である。
藤沢は先刻一人の剣豪を斬っている。
「…ま…っ」
藤沢は逸る気持ちを抑え一歩また一歩と足を運ぶ。やがてそれは国境を急ぐ飛脚の如き早さに変わった。
人は急ぐからこそ走る。
あまつさえ乗り物も無いこの時代、人は急ぐからこそ走るのである。
長屋の立ち並ぶ筋を幾度か過ぎ、石畳の通りを横切る。小川に掛かる小さな橋を渡るとその穏やかな水面に、わっと波が立った。
今や鬼神とも呼べる早さで進む藤沢の姿を目で追える者はいなかった。
時は享保より武家屋敷の一角でひっそりと営む料亭「円楽」の離れの引戸を勢いよく開ける藤沢。
汗にまみれた顔に張り付いたかのように微動だにしない目がただ一点を見つめている。
「おまつ!」
視線の注がれた先にはおまつが座っていた。
「早い…のね…」
藤沢は獲物を前にした獣のように今にも飛びかからんばかりである。
そそくさと立ち上がりおまつが言う。
「お茶…入れます」
「いらない!」
藤沢は草履もそのままにおまつを背後からしたたか抱きしめた。
おまつは顔を紅らめ泣き出さんばかり瞳を潤ませた。
「シャ…シャワー浴びさせて…」
「いらないっ!!」
肩を掴み強引にこちら側に向けると、藤沢はおまつの唇を奪った。
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イワナナシ
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10/05 19:45
藤沢の右手が加速する。
もはや止めるものはいない、そして何より己の力を信じていた。
「出してもすぐに再起する」と。
しかしここで藤沢は思う。この指南書の箇条書きで書かれた文章は三番が不自然に二番と連なっている。
つまりこの文を記した者(八方堂の奉公者と思われる)は、一度書いた三番の注意文を消したのだと推測されるのである。
一体、そもそもそこに何が描かれていたのか…藤沢はマスをかくのを止め、この指南書を書いた者の気持ちを探った。
「炙り…だし…?」
藤沢は菜種の油に火を灯した。
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8
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一発
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10/06 18:35
藤沢は炎の上に指南書を慎重に滑らせる。
奇妙に開いた三行目を見つめながら。
「思い過ごしか…」
そう思った時だった。
紙の上が微かに燻ったかと思うと、そこに薄茶げた線が浮かび上がった。
それは瞬く間に形を成していく。
さっと紙を炎から離し、灯りに透かすようにして凝視した藤沢はごくりと唾を飲み込んだ。
「何だこれは…」
それは湾曲した文字のように見えた。
また平仮名や漢字とどこか似ているようでもある。
しかし読むことは叶わなかった。
藤沢は暫く考え込む。
ふと倍撫を手に取ると、部屋の灯りに照らされ光沢のより際立ったその表面に自らの顔が映し出されていた。
その顔は倍撫の曲線に沿うように湾曲している。
「これだ!」
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イワナなし
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10/10 10:06
もはや疑いようのない事実である。
いにしえの頃より生物の営みは繰り返されてきた。
そこにあるのは「欲」の感情である。欲があってこそ「愛」が生まれるのである。
いまこの倍撫に映る自らの姿に本当の「道」を感じる藤沢であった。
「拙者、これより刀をこの倍撫に持ち替え、全国行脚せんとする」
一筆したためた藤沢はおまつの握り飯を笹の葉に包み、家を飛び出した。
残されるおまつには3年は不自由なく暮らせるであろう金子を残した。
「すまぬ、おまつ・・・!」
行商人が多く歩く道のりを進む足取りは軽かった。
江戸での流行はまだ地方にまでは押し寄せていない。
つまり藤沢自身が倍撫の宣教師としてこの悦びを人々に伝えることが出来るのである。
「拙者、まるでザビエルであるな・・・」
藤沢はこみ上げる笑いを押し殺していた。
分かれ道が現れた。
「北か・・・南か・・・」
藤沢は考えていた。
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10
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一発
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10/14 15:15
それは川と呼ぶには余りに急斜面で、もはや滝と呼べるほどだった。
激しい水の流れに逆らって進む人影が一つ。
その少し上流に行った畔には白髪の老人が座っている。
一足飛びに激流から跳ね上がった人影の手には倍撫が握られていた。
獣の様に身を震わせたかと思うとその四肢から水滴が一斉に吹き飛んだ。
「ようやく見えてきたでござるよ」
かつて江戸随一の人斬りと呼ばれ、今や性の宣教師と化した藤沢竜太郎その人である。
「ふむ、今のはなかなか」
白髪の老人が藤沢に語りかけた。
藤沢は自らの手首を握って続ける。
「後は捻りを如何に加えていくか、これに尽きます」
「ふむ、してその技とやらに名は付けなさるかな?」
「王南新」
藤沢は直ぐに答えた。
「南に向かう新たな王、そんなところですかな」
「おうなにい?おっほっほっほ」
老人は可笑しそうに続けた。
「まこと言語とは不可思議なものよ」
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11
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イワナナシ
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10/14 16:33
藤沢は鍛錬に区切りをつけ、また新たな旅に出る。いまや倍撫は日々の鍛錬により一部が炭化し、その輝きたるや宝石の如し。藤沢を止めるものはもはや誰もいなかった。
〜〜〜〜
堺の港町にある創業万寿元年の問屋「七福屋」ではこの頃、新たな南蛮渡来の性具を輸入開始していた。
その名を「電摩」という。
これは倍撫とは根本的に違う性能を持つ性具であり、そこに目をつけた七福屋では江戸への売り込みを目論んでいた。
詳しく説明すると、倍撫が女性の内部に刺激を与えるのを主とするのに対し、電摩は外部からの刺激に特化した性具なのである。
ある晴れた夏の日、一人の男が七福屋に現れるところから物語は始まる。
番傘から覗く顔は番頭に只者ではないという圧力を感じさせていた。
「ここに、電摩と呼ばれる性具があると聞いたが…」
番頭は驚いた。なにせ電摩の仕入れは誰にも漏らしていないのである。
(弥太郎か…いや、あいつはワテの甥っ子やしそないなことはせぇへん…ほんならこのおさむらいさんは貨物を検閲する役人やろか…よしんばそうであれば小細工はよしたほうがええやろ…)
「へ、へぇ…確かにございますが…」
「よろしい、それではその電摩とやらを2つ、もらおうか」
値つけはまだしていない。どうせならふっかけてしまえ、とばかりに番頭は言った。
「へぇ…そやけど二つで18両になりまっ…」
「ふんっ!!」スパァ…!
先ほどまで人間だった番頭はただの肉塊と化していた。辺りに血しぶきが舞い散る。
「人に胸をはれる商売をすればよかったものを…」
男はそのまま件の性具を手に店を去っていく。
男の羽織からちらと覗く刺繍。
そこにはこう書かれていた。
「厳刀斎」と…
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12
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一発
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10/15 10:23
堺港に土左衛門が上がったのはその日の午後であった。
すでに多数の人集りができている。
港に死体が上がる事自体はそれほど珍しくはない。
ただ今回ばかりは堺の町人の目を集めるだけの異様さがあった。
その身体は左肩から右腰にかけて羽織ごと真っ二つに斬られていたのである。
その切り口はとても人間業とは思えないものだった。
「ありゃ、弥太郎やないか」
「ほんまや」
「七福屋の弥太郎やで」
人集りから声が上がる。
奉行所から与力、同心数名がやって来て弥太郎らしき死体を検めた。
「これ何や」
一人の同心が死体にしっかりと握られた紙を引き離した。
電摩奥義指南書
そこにはそう書かれていた。
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13
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一発
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10/15 10:42
あ
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イワナナシ
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10/15 14:14
〜福村綜合軍法研究所〜
数多くの文献に記されているこの名を知る人も多いことだろう。
戦国の世にいくつもの戦果を挙げ、「軍神」と呼ばれた男、福村良悦が立ち上げた研究所である。
苔むす外壁に覆われた所内では数々の戦に関する研究が行われていた。(もっとも、太平の世であったこの頃、既に時代遅れと揶揄されていたのは想像に難くない)
しかし、数多の研究材料の中に、性具に関するものがあったことは余り知られていない。
次々と押し寄せる西洋文化の波。
そこに日出ずる国古来の教えを取り入れ、研究所の栄光を取り戻そうと躍起になっていたのだ。
福村良悦の孫、福村軍次は長年の研究の結果から鎖鎌をヒントに日本固有の性具を作り上げた。
その名を「漏堕」(ろうた)という。
堕落が漏れる、と書くこの性具は「過ぎたるは及ばざるが如し」の精神によって作られた。
度重なる臨床試験を経て制作された漏堕は遂に実地試験を行う運びとなった。
選ばれた男はもちろん
「厨川〜隣人食い〜武道」
その人である。
その名の通り若き頃より武人として生きてきたが、残る余生を性具に賭けようとしていた。
「なんかペロリと食べたいね」
それが厨川の口癖であった。
福村はその才能を見込んだ厨川に漏堕を手渡し、京の街へ向かうよう依頼する。
こうして全ての性具が「漢」たちの手に渡ることとなった。
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15
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一発
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10/16 15:33
京の町で「それ」が始まったのは、ちょうどその頃であった。
北は嵐山、南は伏見稲荷に至る町々で奇怪な音が聞かれ始めたのは。
「それ」をある町人は言う。
「猿ですね、あれは」
またある町人は言う。
「最初は猫の喧嘩か何かと思いましたよ」
またある町人。
「断末魔って、こういう事を言うのだと思いましたよ。いやね、始めは小さい音なんですよ。それがたがが外れたように……すごいね、人体」
そう、それは人間の鳴き声だった。
人間の女が発する雌の声。
防音、遮音の類いの脆弱なこの時代である。
「それ」は瞬く間に町中に広まることになった。
恥や外聞を捨てても、女達は「それ」を我慢できない。
京に揃いし三種の神器は、その真価を存分に発揮していた。
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16
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一発
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10/30 00:40
おまつ…おまつっ、、おまっちゃーん!
「ぐへあっ!」
藤沢は目を開けた。
「はあ、はぁ、はぁ」
息も切れ切れ辺りを見渡す。
「ここは…何処?」
そこは見たこともない部屋だった。
鮮やかな色の小さな光が幾つも明滅している。
静かだ。
「拙者は倍撫で…おまつ、おまつは?」
その時音もなく部屋の一角で壁がせり上がったと思うや影がぬうっと近づいてくる。
「フジサワドノ」
明かりの具合でその姿形が影になったまま、その物体は藤沢に語りかけた。
「アナタ、バイブモッテル。ソレ、コッチ二ヨコス」
「何奴!むう!?」
勢いよく起き上がろうとしたとき、藤沢は自らの四肢が寝台に鉄のような輪で繋がれていることに気がついた。
「フジサワ、ムダナテイコウヤメル」
藤沢に近づくにつれその姿が露わになる影。
形は人にそっくりで、銀色の衣服に異形の顔。
能面のようなその顔からは表情が感じられない。
その目は異様に大きく漆黒に塗りつぶされている。
「オマエハシッテシマッタ」
「なに?」
「オマツハ、ワレワレノジダイノニンゲン」
「お、おまつ?」
「オマツハジカンノホウヲオカシタ」
「なにを言っている!?」
「オマツハバイブニアンゴウヲシコンダ、シナンショ、オマエハシッテイルダロウ」
「指南書!?炙り出しのことか!?」
「ワレワレハ、オマエヲズットミテイタヨ。オマツガ、シャワートイウコトバヲ、クチバシッテシマッタコトモ」
「しゃわあ?…はっ!」
藤沢は倍撫指南書の空白部分に炙り出しによって現れた見慣れぬ文字を思い出していた。
あれは…湾曲した…そう、倍撫の曲線に沿った……鏡文字!
藤沢の脳裏に電流が走った。
「謎は全て解けた!」
何やら未知の生命体と遭遇してしまった藤沢竜太郎。
おまつが倍撫に残した暗号とは?
藤沢のこの後の行方は?
それはまた別のお話。
大江戸大河〜浪漫編〜
完
次回、大江戸大河〜SF編〜
お楽しみに!
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藤沢は先刻一人の剣豪を斬っている。
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藤沢は逸る気持ちを抑え一歩また一歩と足を運ぶ。やがてそれは国境を急ぐ飛脚の如き早さに変わった。
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あまつさえ乗り物も無いこの時代、人は急ぐからこそ走るのである。
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今や鬼神とも呼べる早さで進む藤沢の姿を目で追える者はいなかった。
時は享保より武家屋敷の一角でひっそりと営む料亭「円楽」の離れの引戸を勢いよく開ける藤沢。
汗にまみれた顔に張り付いたかのように微動だにしない目がただ一点を見つめている。
「おまつ!」
視線の注がれた先にはおまつが座っていた。
「早い…のね…」
藤沢は獲物を前にした獣のように今にも飛びかからんばかりである。
そそくさと立ち上がりおまつが言う。
「お茶…入れます」
「いらない!」
藤沢は草履もそのままにおまつを背後からしたたか抱きしめた。
おまつは顔を紅らめ泣き出さんばかり瞳を潤ませた。
「シャ…シャワー浴びさせて…」
「いらないっ!!」
肩を掴み強引にこちら側に向けると、藤沢はおまつの唇を奪った。