じょしたん! 〜女子小学生による探偵クラブのはなし〜
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1
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ふたば
🕐08/24 00:36
某県某市……とある小学校。
校庭の隅っこに、今はもう使われていない倉庫があった。
その倉庫の入り口に、少女が一人立っている。
「よーし、中の片付けは大体終わったかな。次はっと……」
少女は薄い紙を一枚取り出すと、倉庫扉にベタっと貼り付けてしまった。
「出来た!うーん……あたしの字、我ながらいい出来ね」
貼り付けられた紙にはこう書かれていた。
___探偵クラブ 部員もとむ!
少女はドヤ顔を決めると、校舎に戻っていく。
春風に吹かれ、紙が飛ばされていったことも知らずに。
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2
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ふたば
🕐08/24 00:37
「ねえあなた、クラブに入らない?」
「えっ?」
……私がそう誘われたのは、授業が終わって教室から出ようとしている時だった。
話しかけてきたのは、クラスで一番元気のいい女の子。
名前は、三瀬 愛菜(みつせ あいな)
クラブってどんなもの?そう思っていると、三瀬さんの方から話が進んだ。
「学校生徒のお悩みや事件を解決する、少女探偵クラブよ!その名の通り、女の子限定ね」
「た、探偵?」
少女探偵クラブ……そもそも、そんなクラブ活動が通るのだろうかと私は思った。
三瀬さんは私をじっと見ている。ちょっと怖い。
「な、なに……」
「決めたわ!あなたは、部員1号!あたしが定めたんだから、きっと優秀よね!」
「え……!?」
三瀬さんはそう言うと、私の胸元に別の名札をくっつけてきた。
何々?探偵クラブ部員その1
……何で?
私、結城(ゆうき)ほまれの学校生活は、奇想天外なものへと変わっていってしまうんだろうか?
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3
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ふたば
🕐08/24 00:37
「ここよ!」
「え、ここって使われてない古い倉庫だよね……?」
私は三瀬さんに、すっごく人気のないところに連れてこられた。
校庭の隅の隅。今は使われていない倉庫が、目の前に聳え立っている。
「安心しなさい!ここがあたし達の活動拠点。ほら、ドアに張り紙が……って、あれ?」
三瀬さんは、不思議そうにドアの方を見ていた。
張り紙がどうのと言っていたけど、それらしき物は見当たらない。
「……ない!張り紙が見当たらないわ!」
「ええっ!? どこかに飛ばされたとか……?」
「そうね、貼り付け甘かったかも……よし、決めたわ!」
一瞬、すごく落ち込んでいたような気がする。
でも三瀬さんは、一瞬で立ち直ってこう言った。
「最初の仕事は、消えた貼り紙探しよ!」
そう言うと、校庭へ駆け出していく。
「ちょっ、待って……!」
貼り紙探し……そもそも、本当に見つかるのかな?
不安があったけど、私は何よりあの表情が忘れられなくて、
三瀬さんについて行くことにした。
あの子は足が速かった。男子ともいい勝負じゃないかな?
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4
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ふたば
🕐08/24 00:38
「んもー、どこ行ったのよ!」
三瀬さんと私は、飛んで行った……と思われる張り紙を探して、学校中を回っていた。
「はぁー……ちょっと、休憩させて」
私は、すごく疲れていた。普段、ここまで歩き回ったりすることがないからだ。
そもそもこの時間は家に帰ってゆっくりしている頃だし!
「あの……紙は、本当に学校の中に?」
「あるわよ。勘が私に囁いてるわ!」
「か、勘?」
んな適当な。そう思ったけど、三瀬さんの目はとても燃えていて、本気だった。
だけど実際、本当に学校の中にあるんだろうか。誰かが拾ってくれてたりしてないだろうか。
……いいことを思いついた。
「そうだ。誰かが拾ってるかも。片っ端から聞いてみない?」
私は三瀬さんに、提案をした。
友達とかに聞けば、すぐに見つかるかもしれない。
「いい考えね。でも……それをするとなれば、片っ端じゃないわ」
「えっ?」
何か、いい考えがあるんだろうか。
「あたしが貼りに行ったのは、昼休みの最中よ。
ついでに倉庫の掃除にも行ったし。だから……休み時間中に遊んでた人に、話を聞くわ」
「それでも……数、多すぎないかな?」
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5
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ふたば
🕐08/24 00:39
数が多すぎないかな?って質問に、三瀬さんは首を横に振った。
「先生達に届け出がないって事は、大っぴらな場所で拾われたわけでもないわね。
ついでに言えば……まだ、拾い主が持ってるかも。
だから、グラウンドじゃなくて遊具の周りで遊んでた子達に話を聞くわ」
納得。……していいのかは分からないけど、何となくわかった。
グラウンドで遊んでた子達を除けば、だいぶん数は絞れてくるのだ。
「あ、でも、もう放課後だよ。明日にしない?」
「ダメよ。捜査は初動が肝心なの。時間が経ったら、どんどん風化して行くわ。
今からでも出来る限り、残って遊んでる子達に話を聞きにいかないと」
三瀬さんはやけに真剣そうな顔で、遊具のある場所へ向かっていった。
貼り紙なら、もう一回作れるはずなのに……とても大事なものかもしれない。
私でも、無くしてしまったら同じように探せるだろうか?
___現場に着くと、三瀬さんが一足先に生徒の子達に話を聞いていた。
「……ありがと!いっぱい遊んで帰るのよー!」
話を聞き終わっていたのか、低学年の子供達に手を振る姿が見えた。
「なにか、情報あった?」
そう聞くと今度は、首を縦に振られた。
「今の子達は、いつもここで遊んでるらしいの。だから話を聞いてたのよ。
そ・し・た・ら!ゆーえきな事を聞けたの!」
ゆーって伸ばしたけど、本当は有益だと思う。
「大きな紙がこっちの方に飛んできて、それを拾った女の子がいるって!」
「ほんと!?その子、何年の、どこのクラスとかは?」
「それは……でも、静かで優しいお姉ちゃんだったって」
静かで優しいお姉ちゃん……心当たりは、あんまり……ある!ある!?
私は心の中で、ほんの少し跳ねて踊った。心当たりが、一つだけあったからだ。
私の考えが正しければ、その子は同じクラスで______
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6
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ふたば
🕐08/24 00:39
「でもその子、もう帰ってるんじゃないの?」
三瀬さんの言葉に、私は横に首を振る。
「いや、まだ居るはずだよ。教室に」
静かで優しそうな子なんて、学校ではその子一人しか知らない。
もしかしたら、他にいるかもしれない。
だけど私は、三瀬さんみたいに直感で動いてみたいと考えていた。
……教室に戻ると、
その子は一人、窓の外を眺めていた。
「……」
私たちが後ろに来たのがわかると、その女の子はゆっくりとこっちを向く。
「かんざき、さん….…」
「……何?」
神崎(かんざき)シロさん。名前を呼ぶと、少し長めの黒髪をいじりながら小さく返事をした。
わー……その動きだけで、なんかミステリアスな感じがする。
「あなた!大きな張り紙を拾わなかったかしら?」
「張り紙……て言うか、声が大きいわ。三瀬さん」
なんと的確なツッコミだろう。
だけどそう言いながらも、三瀬さんに反応した神崎さんは、
自分の机の引き出しを開けた。
「これ。……あなたのだったの?」
取り出したのは、くるくると丸められた一枚の大きな紙。
「そうよー!これよ、これ!これがあれば、心置きなく探偵クラブを結成できるわ!
……ところで、なんで持ってるの?」
「窓見てたら……飛んできた」
三瀬さんはそれを受け取ろうと手を伸ばしたけど、神崎さんはひょいと腕を上げてそれを阻止した。
「な、何よ!」
「私も……入れて?その、探偵クラブっていうのに。興味あるから」
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7
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ふたば
🕐08/24 00:40
急な申し出に、困惑する三瀬さん。
だけど、少し時間を置いて返事が返ってきた。
「良いわ!張り紙を見つけてくれたし。じゃあ……部員二号ね!」
「二号?」
「もう一号がいるから」
そう言って、私の方を見る。
は……一号って、私のことか!
「へえ、結城さんだった?よろしく頼むわね」
「う、うん……よろしく!」
神崎さんは、意外と優しい表情だった。
みんな、同じクラスの仲間だけど……仲良くやって行けそう!
そう思っていると、三瀬さんが教室のドアを閉めてこっちに戻ってきた。
「あれ、どうしたの?」
「神崎シロさん……あなた、嘘をついてるね?」
___えっ?
私は、目を点にした。
嘘って、何のこと?
「嘘……? 何処がそうなのかしら、三瀬さん」
神崎さんは、何も隠してないと言うような余裕の顔だ。
だけど三瀬さんは、鋭い目つきを変えることはなかった。
「外から紙が飛んできた。そう言ったわよね。
でもね……私たちは聞き込みをしたの。下級生の話では、おそらくあなたが……紙を拾っていたのを見てたわ。
……外で」
「あ、そうか、そう言えば……!」
確かに、聞き込みした話と神崎さんの話が全然ちがう。
何で気付かなかったのかなぁ?
「ふふっ……成る程ね。そこまで調べたなんて、やるじゃない」
「その張り紙を拾ったなら、見てたはずよ?内容を。探偵クラブなんだし……
私を甘く見たわね?」
笑みを浮かべる神崎さんと、自信ありげな三瀬さん。
十秒くらい時間が止まってたかもしれない。
それくらい静かな時間が過ぎて……
「探偵を試すなんて、良い二号じゃない?
わかったわ。正式に探偵クラブの一員よ」
「えっ、自分のことを……」
自分のことを、探偵って言ったよね?今。
うーん……自信ありげじゃなく、てすっごく強い自信を感じた。
「けーすくろーずど!今日の事件はバッチリ解決したわ!さて、帰ろ帰ろ!」
「case closed……じゃないの?」
神崎さんに突っ込まれながら、三瀬さんは1人教室を出ていく。
私も疲れたな、帰ろう……。
___明日から、どうなるのかな?探偵クラブに入っちゃったけど。
きっと、大変なことになる。だけど、きっと楽しい。
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「出来た!うーん……あたしの字、我ながらいい出来ね」
貼り付けられた紙にはこう書かれていた。
___探偵クラブ 部員もとむ!
少女はドヤ顔を決めると、校舎に戻っていく。
春風に吹かれ、紙が飛ばされていったことも知らずに。