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網走にある洋食店「番外地」の窓を風が強く叩いている。 「ハ、ハゲビリー…」 「誰がハゲだ、ちゃんと仕込み終わったのか?」 ニイポーは藤沢に言うとチキンカツを平らげた皿を持って厨房に入ってきた。 「え?」 藤沢は状況が飲み込めない。 「仕込みは終わったのか?」 「ミキティが…」 「俺の嫁がどうした、馴れ馴れしく名前で呼ぶな」 ニイポーは深いため息を吐く。 「進一、最近たるんでるぞ。御前試合も近いし仕方ないが仕事は仕事だぞ」 「すいません…」 「ゴホッ、まったく」 ニイポーはカレンダーをめくりながら何やら計算を始める。 「ちょうど試合の頃だな…どうやら俺は父親になる」 「は?」 カランコロンカラン ちょうどその時、店の扉が開いた。 「ゴホッゲホッ、さあ…お客さんだ、それとな進一…」 ニイポーは咳をおさえた手の平を藤沢に見せると言った。 「俺はもう長くない」 その手は血に染まっていた。 網走の夏は短い。
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