ガンプラビルドガールズ
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プラネテューヌ親衛隊
2016/09/04/18:14
七森中在校生赤座あかりはいつも通りの日常を過ごしていた。
二年生に上がり三年生が受験勉強に勤しんでいる季節。
ひょんな事から幼馴染みの歳納京子が部室にガンダムのプラモデルーーーガンプラを持ってきてーーー。
この物語はガンプラファイトを通じて成長する少女の物語である。
[SC-05G]
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2016/09/06/15:09
あかりはその言葉を初めて聞いた。
当然わからない。そんなあかりの様子を察してか女性はくすりと笑う。
「知らないようね。ガンプラファイトっていうのはその名の通り……ガンプラで戦う競技よ」
「ガンプラで戦う競技っ!? そんなのがあるんですか!?」
「なんだ……知らなかったのか、京子が大会に出ると言っていたからてっきり知っていると思っていたぞ」
意外そうにギムが言う。あかりはギムに顔を向けて頷いた。
「あかりはてっきりガンプラの出来を競い会うコンテストみたいなものかと……」
「そうだったのか……あいつめ、新兵には詳しく説明しろと説明したのに……」
腕を組んで唸るギム。
どうやら彼は京子がガンプラファイトの大会に出場するのを知っていたようだ。
「ガンプラファイトを知らないなんて勿体無い……そうだわ!」
女性はポンッ! と手を合わせて微笑むとあかりの右腕を掴んできた。
「私がガンプラファイトを教えてあげるわ。店長。店の奥を借りるわね」
「うむ、良かろう! 何事も経験が大事だからな! それと、店長ではなく御大将と呼べっ!」
声を大にして叫ぶが女性はスルーしてあかりを引き摺りながら店の奥へと進む。
「あ、あの! あかりは別に教えてもらわなくても……」
「いいのいいの。お姉さんが教えてあげるわ。全て私に任せなさい」
(あうう〜……大変な事になっちゃったよ)
あかりの意思とは関係なしに店内の奥へと引き摺り込まれてしまった。
奥には隔離するように別の部屋が一室あった。女性がドアを開けて中へ入るとそこには六角のテーブルが複数繋がった黒いテーブルだけが置かれているのみだった。
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2016/09/06/15:09
「この部屋は何なんです?」
「ガンプラファイトをするための部屋よ。そこの装置で対戦するの」
女性は六角のテーブルを指して言った。
「装置……ってテーブルですよね?」
「まあまあ、やってみればわかるわ」
女性は背後に回って背中を押して、あかりをテーブルの端に移動させ。自分も向かい側のテーブルの端に歩いていった。
「それじゃあ、装置の上にガンプラを置いてみて」
「ガンプラを……こうですか?」
言われた通りにテーブルの上にガンプラを置く。
それに合わせて女性も自身のガンプラを置いた。
彼女のガンプラは四足歩行の犬を模したような見た目で背中から首が生えた不気味なシルエットをしている。
「お互いガンプラを置いたわね。始まるわよ」
得意気に女性が言う。
何が始まるのか聞こうとするより先に……テーブルから青白い粒子が溢れ出していき、部屋中を満たしていく。
「わ、わっ! 何か出てきましたよ!」
「大丈夫。これはプラフスキー粒子だから」
「な、何ですかそれ……」
「まだ詳しく判明してないんだけど、プラモデルを自在に動かせる特殊な粒子なの。この装置はそのプラフスキー粒子を排出させてプラモを動かせるようにする装置なの」
「そうなんですか……あ、また何か出ましたよ」
何もなかった空間に二つの球体と何かを表すパラメーターがあかりの手元に現れる。
「これはガンプラを動かすコントローラー。それと空間に現れたこの機体の耐久力。スラスター容量。武器の種類よ」
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2016/09/06/15:10
親切丁寧に説明をしてくれるおかげで初めて体験した出来事にも戸惑わずにいられる。
あかりが二つのコントローラーに触れると装置から再びプラフスキー粒子の光が溢れでる。
「わあ……」
次に起きた光景にあかりは目を奪われる。
何もない黒一色だったテーブルの上に突然白一色の雪景色が広がっていたのだ。
「フフ、驚いてるようね。これもプラフスキー粒子の恩恵なのよ。装置内の映像をホログラムとして投影してるの。乗ったり触ったり出来るけど……もちろんプラモデルだけね」
「こんな事が出来るなんて……あかり知らなかった」
まるでこの場所だけ未来技術で作られたような錯覚を受ける。
それだけこの装置はあかりに衝撃を与えた。
「早速動かし方を教えるわね。左のコントローラーを好きな方向に動かしてみて」
「こう……ですか?」
あかりは左のコントローラーを少し前に傾ける。
するとジムがゆっくりと足を動かして動いてみせた。
「動いたっ!? 動きましたよ!」
「ええ、そうね。ちなみに大きく傾けると走るのよ」
今度は大きく傾ける。
それに合わしてジムが雪原を駆ける。一歩進む事で雪にジムの足跡がくっきりと残った。
あかりはジムを操作して自由にフィールドを移動する。自分で作ったガンプラが動いて言い様のない感動を感じている。
「凄い! 楽しい……面白いですよこれ!」
「喜んでくれたようでそろそろ……」
女性の口が不気味に歪む。
自身のガンプラを動かしてジムの前に踊り出ると、彼女は右のコントローラーを動かし、人差し指でボタンを押すような仕草を取ると彼女のガンプラが背負った砲台からビームが発射される。
「うわあっ!」
直撃を受けたジムは姿勢を崩して後方に倒れる。
すかさず相手のガンプラがジムにのし掛かってきてその身動きを封じた。
「な、何をするんですか!?」
「何って、ガンプラファイトに決まってるでしょ」
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2016/09/06/15:10
「そんなっ! あかりまだ戦い方を知らないのに……!」
「そうね。でも私ねぇ……無抵抗の相手をいたぶるのが好きなのぉっ!」
相手のガンプラの口元にある二問の排出口から二つの桃色の光が伸びて牙のように鋭利な形に変化する。
その牙をジムの胸元にあるコックピット目掛けて突き刺す。
「ひいっ!」
自分のガンプラが抵抗出来ずに無惨に破壊されていく。
目の前の光景にあかりは恐怖で身体が震えて動かなくなってしまった。
何度も牙を突き立てられ、ジムの耐久力が0となってしまい。試合終了のアラームと共に景色が消えて元の何もない黒一色のテーブルに戻る。
「……あ」
ふと、我に帰るあかり。フィールドを見ればファイト終了状態の二体のガンプラがあった。
依然として相手のガンプラにのし掛かっている状態だが、牙を突き立てられた胸元に穴が一つもなかったのだ。
「あんなに刺されたのに何で……」
「それはね……」
女性が歩いていき、自分とあかりのガンプラを持ち上げた。
「さっきの傷もプラフスキー粒子が見せた映像なの。そういう演出であって実際は装置のセーフティーが働いてパーツは外れる事があっても壊れはしないのよ」
「そうだったんだ……よかった」
「でも、それじゃあ詰まらない……」
「え?」
女性はあかりのジムを床に叩きつけ、右足で踏みつける。
ヒールで踏まれたジムは腰から下が粉々になってしまった。
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2016/09/07/17:39
「あ、ああぁあああっ!?」
悲痛な叫びを上げてあかりは粉々になったジムの元に駆け寄った。
女性は足を退け、あかりは膝を折って壊されてしまった愛機を拾い上げる。
「クスクス……」
女性は恍惚な笑みを浮かべて見下ろしていた。
彼女の笑い声が耳に届き、あかりは顔を上げる。その顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「酷い……何もここまで……」
「なぁに? 文句あるの。騙されるアンタの方が悪いんでしょ。むしろ感謝してほしいわねぇ……アンタの才能の無さを教えてあげたんだからさ」
そう言うと女性は腹を押さえて大声で笑い出す。
悔しかった……初めて作ったガンプラを破壊されて、京子に見せて喜ぶ顔が見たかったのにその願いは残酷にも打ち砕かれてしまった。
京子に対する申し訳なさと不用意に見知らぬ人についていった後悔で胸が押し潰されそうになる。
いっそここから逃げ出してしまおうーーーと、思ったそんな時。
「おーっす!」
ドアをバタンと勢い良く開けて京子が現れた。
「御大将から聞いたんだけど、ガンプラファイトやってんだって? あかりもとうとうやる気になってくれたんだね!」
「京子……ちゃん……」
「ちょっ! 何で泣いてんの!? って、それ……」
あかりの手にある粉々になったジムを見て涙の理由を察した京子は対戦相手とおもしき女性を睨んだ。
「それ、あんたがやったの?」
「そうよ。で、いきなり入ってきてあんた誰?」
「こいつの友達だよ」
京子はいつもと違う真剣な表情で中へ入ってきて女性の前まで歩いていくと鞄から自分のガンプラを出して突き出してきた。
「私とガンプラファイトで勝負してくんない?」
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2016/09/07/17:39
「へぇ? 威勢がいいわね。その子の仇討ちって事……望むところよ!」
京子の申し出を女性は受け入れた。
あかりは立ち上がって京子の側に寄り。口を開いた。
「や、止めようよ。あかりみたく壊されちゃうよ……」
「大丈夫だって、私これでもガンプラファイト経験者だから」
いつもの調子で笑顔を向ける京子。その笑顔はあかりを励まそうとする彼女なりの優しさだった。
あかりから女性に視線を戻すとしばし二人は数秒睨み合った後。装置の方へ歩き所定の位置についてガンプラをセットした。
「準備はいいわね?」
「もちろん」
再度ファイトの意思を確かめ合う。
再び装置からプラフスキー粒子が溢れ出してフィールドを形成する。
今度もバトルフィールドは雪原。二人はファイト開始のアラームと共に自身の愛機を発進させた。
雪原に二人の機体が降り立つ。
「そっちはケルベロスバクゥハウンドか……」
「あなたはレッドフレームね。狩りがいがあるわ」
京子のガンプラは赤いフレームが身体のあちこちから露出している。二足歩行型のガンダムタイプの機体だ。
「先手必勝だ!」
先に攻撃を仕掛けたのは京子。右のコントローラーでカーソルをビームライフルと書かれたアイコンに合わせて人差し指で軽くコントローラーにタッチする。
それに合わせて腰にマウントしていたビームライフルをレッドフレームがその手に収め、バクゥハウンドに狙いを定めて引き金を引く。
銃口からビームが放たれた。
「そんな攻撃っ!」
バクゥハウンドが後ろ脚を強く蹴って上空へ跳ぶ。
バクゥハウンドがいた位置にビームが被弾してそこの部分の雪だけ蒸発した。
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2016/09/07/17:40
「よっしゃ狙い通り!」
京子が口角を上げる。
レッドフレームがブースターを噴かし、空中へ退避したバクゥハウンドに向かって飛翔し肩を激突させて叩き落とす。
突進をくらったバクゥハウンドはスラスターを巧みに使用して崩れた姿勢を立て直して着地した。
「まさか今の攻撃は私を誘い出す罠だったなんて……あんた意外とやるわね」
「まあね、こういうゲーム得意なんだよ」
「ちっ……こいつも初心者かと思ってたのに……」
吐き捨てるように女性が言う。
それを聞いて京子は眉根を歪めた。
「あんたひょっとして初心者狩り? まさかこの辺にもいたなんて……」
「初心者狩り? なんなのそれ……」
京子の後ろで戦いを見守っていたあかりが聞いてくる。
「その名前通り初心者を徹底的にいたぶる性格の悪いプレイヤーの事を言うんだよ」
「じゃあ、あかりが狙われたのって……」
「見たまんま初心者だからだろうね」
「そんなぁ〜……」
女性の正体を知ってあかりは肩を落とす。
「でも、相手のガンプラを破壊すんのはやり過ぎなんじゃないかな?」
「私がなにやろうが私の勝手でしょ。あんたに口出しされたくないねっ!」
「そうはいくかっての。絶対勝って謝らせてやるよ」
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2016/09/07/17:40
「いいわよ。勝てたら……ねっ!」
バクゥハウンドが身を起こして砲門から砲弾を撃つ。
しかし、狙いは京子のレッドフレームではなく彼女の一歩手前の地面に向かっている。
「ん? 何でそんな場所に……狙いを外したのか?」
相手の操作ミス。そう思っていた京子だったがその考えはすぐに否定される。
地面に被弾した瞬間。爆発の代わりに中から煙が噴き出して周囲に充満していく。
「って、煙幕かよっ!」
「その通り。今度はこっちからいかせてもらうわよっ!」
視界が閉ざされた中でバクゥハウンドが口からビームサーベルを放出しながら正確に突進してくる。
バクゥハウンドはレッドフレームを斬りつけると再び煙の中へ姿を消した。
「こんにゃろ!」
バクゥハウンドが消えた方向にビームを乱射する。
が、反応がない。既にその方向にいないようだ。
「遅いわよっ!」
後方からビームが飛んできてレッドフレームの頭部に直撃し、頭が大きく吹き飛ばされた。
「わあっ!? 京子ちゃんのガンプラがぁっ!」
煙の中からレッドフレームの転がってきてあかりは驚愕する。
「だいじょうぶ、よく見てみ」
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2016/09/07/17:40
「よく見てって……あ、何か首から出てる」
首の根本から吹き飛ばされた頭を繋ぐように一本の赤い線が伸びていた。
「ガンプラファイト中はパーツが外れても自動で元に戻るんだ。だからそんなに心配する必要はないって」
「そうだったんだ。何か安心したぁ……」
「初心者に説明してる暇があるのかしらっ!」
頭部が戻っていないレッドフレームにバクゥハウンドが攻撃を仕掛ける。
抵抗するも相手に攻撃が掠りもせず、こちらの耐久力がどんどん削られていく。
「く、くそぉ! このままじゃ……」
「ひゃははは! さっきまでの勢いはどうしたのかしらぁ!」
煙幕が晴れそうになってきたが、再度煙幕を張って京子の視界を封じる。
先程と同じようにバクゥハウンドが右から突進してきた。
(あれ……この動きさっきも……)
後ろで見ていたあかりは相手の法則に気付く。
それを伝える為にあかりは近づく。
「京子ちゃん……もしかしたらこの状況何とかなるかも」
「え! マジっ!」
相手に悟られないように声を小さくしたのに京子は大声を上げたから、慌ててあかりは首を横に振った。
「しーっ! あんまり大声出さないで、あの人にバレるから……」
「むっ、なるほど……わりぃ」
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2016/09/07/17:41
本当に悪いと思ってるのか、舌を出しながら謝ってくる。
それはほっといてあかりは話を進めた。
「次に煙幕出されるまでじっと耐えてて……攻撃のタイミングはあかりがするから」
「オッケー!」
レッドフレームはシールドを構えてその場から一歩も動かないでいる。
すんなりあかりの指示を受け入れたのは幼馴染み故の信頼から来るものだろう。
「あらぁ。諦めたの……じゃあ、いたぶってやるわ!」
容赦なく攻撃を仕掛けてくる。京子はあかりの指示が出されるまで防御の姿勢を崩さない。
あかりも早く煙が晴れろと願いながらも緊張していた……もし、自分の思い違いだったら京子が負けてしまう。自分の為に戦ってくれているのにそれを見るのは嫌だった。
そうして何度目かの攻撃で煙が晴れ、煙幕がまた張られる。
「そろそろトドメを刺してあげるわ!」
バクゥハウンドが飛び掛かってくる。あかりの読み通り『右から』ーーー。
「京子ちゃん! 右から来るよ!」
「待ってましたぁ!」
防御を解いて右方向からやって来たバクゥハウンドに回し蹴りを叩き込んで吹き飛ばす。
「なっ!」
女性は顔を驚愕に染めて目を見開いた。
自分の愛機が地面を転がっていく。起き上がろうとしたが、レッドフレームのビームを連続で浴びせられて思うように立ち上がらない。
気づけば耐久力がレッドフレームより下回っていた。
「これで決めるっ!」
腰の鞘から一振りの刀を抜き、手に収めてブースターを噴かせながらレッドフレームが迫る。
「ひいっ! ちょっ待って許して腹躍りでも何でもするからぁっ!」
「やなこった!」
無様な命乞いも聞き入れず、バクゥハウンドに至近距離まで近づいたレッドフレームは刀を腹部に突き立てた。
それと同時に試合終了のアラームが部屋に響き渡った。
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2016/09/07/17:41
フィールドが元に戻り。女性は焦点が定まらない瞳で仰向けになったバクゥハウンドを見ている。
自分の敗北を受け入れてないようだ。
「さぁて、約束通り勝ったからあかりに謝ってもらうよ」
京子の声で女性はそちらに目を向ける。
確かに試合中そんな約束をした……それは自分が負ける筈ないと自信があったからだ。
だが、負けたからその約束に従わなければならない……女性は唇を強く噛んだ後。
「……いいわよ」
視線を京子のレッドフレームに向けて不気味に笑った。
すると彼女はレッドフレームに手を伸ばしーーー。
「なぁんてねっ!」
あかりのジムと同じく地面に叩きつけてヒールで踏みにじった。
「ああっ! 私のガンプラがっ!?」
「ひゃははは! 謝るなんて嘘に決まってるだろぉ。ばーか!」
そんな捨て台詞を残して女性は部屋から出ていく。
「京子ちゃん、あの人逃げるよ!」
「逃がすかっての! 追うよ、あかり!」
あかりは頷く。
二人は逃げた女性を追って部屋を飛び出し、店内にいないとわかると外へと出ていったのだった。
◇
「……見つからなかったね」
数時間後。
二人は月光蝶に戻ってきていた。
あかりが落ち込んだ様子でいるのは女性を見つける事が出来なかったからだ。
「お前達……何があった?」
店内に入るなりギムが聞いてくる。
カウンターの上には二人の壊れたガンプラが置いてあった。
彼も薄々気づいている様子だったが、二人はファイト中に起こった出来事を彼に話す。
「そんな事が……奴め。初心者狩りだったのか、性根の腐った奴め……」
「あ、あの……こういう事ってよくあるんですか?」
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2016/09/07/17:41
ギムは首を横に振った。
「昔は多かったが最近は少なくなってきた方だ。ここら辺は被害者が出たことがないから大丈夫だと思ってたのだが……」
「それじゃあ……あかりが標的第一号なんですね」
この付近最初の被害者が自分と知ってあかりは泣きそうになった。
京子はあかりの肩に手を置いてから口を開いた。
「何かごめんね。私がガンプラの事を教えなければこんな目に会わなかったのに……」
珍しく落ち込んでいる調子の京子。あかりのガンプラを破壊されたのは自分に責任があると思っているようだ。
あかりは微笑んで首を横に振る。
「京子ちゃんのせいじゃないよ。あかりがあの人についていったのが悪いんだもん……京子ちゃんはあかりを助けようとしてくれたんだもん。あかりはすごく嬉しいよ」
その言葉に京子は救われた気持ちになった。続けてあかりは自分の本心を口にする。
「それと……ね。ジムが壊されたのはショックだったよ。でも、それよりもあかりはね……楽しいって思えたんだ」
「ほう、楽しいとな」
聞き返したのは京子ではなくギムだった。ギムに視線を向けてあかりは頷く。
「初めてジムを動かした時、あかりすっごく楽しかったんです。まるで自分自身がガンプラになったように動いたのがすっごく感動だったんです……だから」
あかりは京子に向き直って唇を震わす。
「あかり。京子ちゃんと出るよ。大会に!」
「……え?」
あかりの申し出に京子は目を丸くして、
「えええええええっ!」
一拍置いてオーバーリアクションで叫んだ。
「マ、マジで! あんなことあった後なのに!?」
「うん……怖かったけど。それ以上にもっとガンプラを動かしたいって気持ちのが強いんだ。途中でやめるなんて今のあかりにはできないよ」
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2016/09/07/17:41
あかりの申し出は京子にとってこれ以上ない嬉しい報告だった。
だから京子はーーー。
「うおおおおおっ! ありがとな! あかりぃ!」
感極まってあかりに抱きついてわしわしと頭を撫でる。
「ちょっと京子ちゃん!? こんなところで恥ずかしいよっ!」
「いいの、私が恥ずかしくないからねっ」
「あかりが恥ずかしいんだってばー!」
あかりの顔がみるみる赤く染まっていく。
二人のじゃれ合いを間近でいたギムは二人がそんなに落ち込んでいないのを知って口許を緩ます。
(こいつら立ち直り早いな。結構結構……戦士としては合格点だ。さて、これをどうしたものか……)
ギムは視線を落として壊れた二人のガンプラを見てから視線を前に持っていく。
「ところでお前達はこいつをどうするんだ?」
ギムの問い掛けに二人はじゃれ合うのをやめる。
京子が離れてあかりと顔を見合わせた後。何かを決めたような瞳をギムに向けてきた。
「そのままでいいよ」
「あかりも捨てずに持ち帰ります。これは初めて作ったガンプラですから……」
「そうか、なら持ってけ」
ギムは二枚のビニール袋にパーツを分けて入れ、二人に渡してきた。
あかり達が受け取るとギムは新たな質問をする。
「持っていくの構わんが、お前らガンプラはどうするんだ? 新しいの買うのか?」
「買いたいけど今月の小遣いがもう……」
「それならあかりが買ってあげるよ」
新しいガンプラが買えなくて暗い表情をした京子にあかりが言った。
すると京子には目を丸くして見据えた。
「え、いいの!」
「うん、一個くらいなら買えるから。助けてくれたお礼に……」
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2016/09/07/17:42
「おおーーーっ! 心の友よぉー!」
「って、またぁっ!?」
再度抱きついてくる京子にあかりはまた顔が真っ赤になる。
そんな二人のやり取りを見つめてギムは苦笑しながら肩を竦めるのだった。
◇
その頃あかり達を襲った初心者狩りの女性は隣町の模型店にやって来ていた。
京子に負けた腹いせをここに来ている客の一人にぶつけようと勝負を挑んだのだが……彼女は目の前の状況に理解出来ないでいる。
「そんな……私が負けた。二度も……」
本日二度目の敗北。ファイトが終わったフィールドにはバクゥハウンドが相手の機体であるガンダムバルバトスのメイスによって叩き潰された瞬間のポーズで固まっていた。
「へえ、これがガンプラバトルね……中々面白いじゃん」
対戦相手が満足そうに言った。
赤い帽子を深々と被り。赤いパーカーとホットパンツの装いの少女。
そしてその顔の上半分を黒いマスクで隠している変わった見た目をしている。
その少女は女性に視線を向けると勝ち誇った表情で口を開いた。
「親切丁寧にありがとう。でも、いきなり襲ってきて初心者の私に負けるのってどうなのかな?」
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2016/09/08/15:18
「くっ……」
悔しさで唇を強く噛む。
この少女に勝負を挑んだのは店内でいた客の中で一番目立った見た目だったのと話しかけて彼女がガンプラファイトをやった事がないと知ったからだ。
「あんた本当に初心者なのっ! その強さで初心者って嘘でしょ!?」
この敗北に納得いかなかった。
あかりと同じ手口でガンプラファイトを持ち掛け、途中からなぶり殺しにしてやろうとしたが……ファイト中少女のバルバトスに『一度も攻撃が掠りもせず』負けてしまったのが不満でならない。
「本当に初心者だよ。負けたのはお姉さんに才能がなかったからじゃないの?」
少女が馬鹿にしたような笑いを浮かべて頭に血が上る。
「てんめえええええっー!」
少女に殴りかかろうと拳を固めて迫った。
「よっと!」
「ふがっ!」
軽く横に移動して避けられ、女性は転倒する。
少女はクスクス笑うと、店員に聞こえるように大きく口を開いた。
「店員さーん! この人負けた事を私のせいにして暴力ふるってきたんですけどー!」
「なっ!」
声を駆けつけた店員がこちらにやってくるのが見えた。
女性は立ち上がって少女を忌々しく睨み付ける。
「あんた……覚えてなさいよっ!」
捨て台詞を残して女性は走り去ってしまった。
すぐさま店員も後を追う。
「今時あんな台詞を言うとはね〜……さてと私もそろそろ。ん?」
出ていこうとしようとしたが、壁に貼られたポスターを見て足を止める。
「ねえ、君。これなんなの?」
近くにいた同年代の少年に聞くと先程の騒動で平然としてる少女に面食らっていたが、すぐに答えてくれた。
「ん、ああ。これね。今度やる大会の告知だよ」
「ふーん……大会ね」
少女はもう一度ポスターを眺める。
その瞳は新しい玩具を買ってもらった子供のように輝いていた。
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プラネテューヌ親衛隊
2016/09/08/15:19
◇
「よし、出来たっ!」
京子が額の汗を拭う。
あかりに買ってもらったガンプラを二人で一緒に作業して今漸く終えたのだ。
「てかさ、あかり……こいつで本当に良かったの?」
「うん、気に入ったから……」
ーーー数十分前。
「え、あかりが選ぶの?」
あかりが目を丸くした。
理由は京子が買うガンプラをあかりが選んでくれと言ってきたからである。
「うん、普通に買ってもらうのも悪いし。選ぶ権利はあかりに譲ろうかなって」
「そ、そう……それならーーー」
あかりは店内を見て回って京子に似合いそうなガンプラを探す。
(あ、これならーーー)
そして一つのガンプラを見つけた。
「これ、両側のあかりのお団子っぽいし。見た目もかっこいいから京子ちゃんも気に入りそう名前は……ダブルオー。うん、これに決めた」
購入するのをダフルオーに決めあかりは京子の元へと戻っていた。
「左右のGNドライブがお団子に見えるって、いかにもあかりらしい発想だねぇ」
「え、変だったかな?」
「ううん、全然むしろ前から気になってたんだよね。ありがとっ!」
京子が喜んでくれてあかりは胸を撫で下ろす。
「そういえばあかりはどうするの? 機体ないけど……」
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2016/09/08/15:19
「……あ」
京子のガンプラを選ぶのですっかり忘れていた。自分のガンプラをどうするのかを……。
「ど、どうしようっ!? 機体なかったら大会に出れないよね。お小遣いさっきので使っちゃったしどうすれば……!!!!!」
大会に出る決意を固めたのに肝心の愛機がなければ出場できない。
その事実を直面してあかりは焦り出す。
が、事態は彼女が思うほど深刻なものでなかった。
「なら、こいつを使え……」
店の奥へと行っていたギムが一つのガンプラを持ってあかり達の前に戻る。
テーブルに置かれたそれは人の形をしておらず。戦闘機に近いフォルムをしていた。
「えっと、御大将さん。これは?」
「オーライザー……ダブルオーとドッキングすることでダブルオーライザーに強化することの出来る支援機だ。こいつをお前にやる」
「こ、これをですかっ! でも、どうして……」
ガンプラまるまる一体をやると言われあかりは驚く。
理由を聞かれるとギムが腕を組んで肩を竦めてから言った。
「あの時あそこで止めていればお前のジムは無事であっただろうからな。これはそんな俺からの罪滅ぼしの意味でのプレゼントだ。受け取ってくれ……」
「え、えっと……あかりは全然気にしていないんですけど」
「いいじゃん。タダで貰えるんだし」
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2016/09/08/15:19
京子が肩に手を置いてにしし、と笑う。
ギムがあかりにオーライザーを渡したのにはもう一つ理由がある。それを伝える為に話を続けた。
「先程の話を聞いて気になっていた。小娘……お前はあの初心者狩りの動きをわかっていたのではないか?」
「え、あ、はい……なんとなく同じ動きしてるなって……」
「ふむ、見かけによらず鋭い洞察力を持っているな。京子……こいつとお前で組んで大会に出てみろ。優勝とはいかんがこいつの洞察力があれば中々いい結果が出せるかもしれんぞ」
あかりの隠された能力に興味を持ったギムが不敵に笑う。
「いや、かいかぶり過ぎですよ! 相手の動きがわかったのなんて偶然ですよ、きっと……」
あかりが首を横に振って否定する。
「まあまあ、やってみようよ。こう見えて御大将は全国大会に出場する程の実力者なんだぜ。その人が言ったならあながち間違いじゃないって」
「ぜ、全国大会出場者っ!」
京子の話を聞いて目を丸くしたあかりがギムを見る。
ギムは得意気に胸を張って鼻を鳴らした。
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2016/09/08/15:19
「そんなに凄い人だったんですね……」
「まあな。俺はこう見えて凄い人なのだ!」
「この暑苦しいのがなければいいんだけどなぁ……」
豪快な笑いをあげるギムに半眼を向けて京子は苦笑する。
次いで視線をあかりに向けて口を開いた。
「でさ、どうするの? このダフルオーライザーで私と大会に出る?」
「えっ?」
唐突に投げ掛けられた質問。
あかりは数瞬考えた後に覚悟を決めてこう切り出した。
「うん、あかり出るよ。京子ちゃんと一緒に!」
「よっしゃ! そうこなくちゃね!」
あかりの答えに京子は満足そうに微笑む。
「んじゃあ、1ヶ月後の大会まで猛特訓だなっ!」
「うん、1ヶ月後の大会……って、えええええええっ!?」
大会が1ヶ月後に開かれると聞いてあかりは全身から汗が滲み出る。
京子は何でそんなに驚いてんの? と言いたそうな顔で首を傾げていた。
「た、大会って1ヶ月後なの!」
「そだよ。結構先でしょ」
「いやいや、短いよっ! もう少し先かと思ってたのにこんなに短いなら特訓してもそんなに強くならないんじゃないかな……」
「まあ、なんとかなるって!」
京子は満面な笑顔で右手を前に突きだし、二本の指を立ててVサインを作った。
「その自信はどこからっ!?」
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2016/09/08/15:20
いつもの調子の京子に一抹の不安を覚えるあかりであった。
が、彼女の笑顔を見ていると本当にどうにかなってしまうのではないかと思ってしまうのも事実。
まだ不安が残るも、京子とならきっと大丈夫と自分に言い聞かせてあかりはいつもの調子で微笑んだ。
「じゃ、一緒に頑張ろうぜ!」
「うん!」
二人で手を高く上げて互いの掌を叩いてハイタッチをした。
互いに大会を目標に意気込む。
今日この日……大会に挑む二人で一人のガンプラファイターが誕生したのだった。
◇
数日後。
「そりゃあっ!」
京子の気合いの咆哮と共にダブルオーが宇宙空間を駆ける。
前方にいた練習用のMSハイモックに接近して手にしたGNソードを振るう。
装甲を斬り裂かれたハイモックは機能を停止させて動かなくなった。
「よし! これで全部倒したぜ!」
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