アリス・ギア・アイギスVSメガミデバイス
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プラネテューヌ親衛隊
2019/01/22/17:37
ーーー2018年。
世界は平和であるとは言え なかった。
戦争を行っている国もある し、毎日のように殺人や事 故で人が死ぬニュースが報 じられる。
それでも、吾妻楓はそれと は無縁の平和な生活を送っ ていた。
大好きな家族と友人に囲ま れて、毎日が幸せだった。
ーーーこの時までは。
平和だった東京の風景は様 変わりしていた。
瓦礫となったビル。
火の海となった街。
そして、血眼になって逃げ る人達の悲鳴。
六歳の楓には、突然起きた 事態に目の前で何が起こっ ているのか理解できていな かった。
ただ空を見上げるーーー空 を割って、人類を脅かすそ れは降り注いでいた。
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2019/01/22/17:37
地球上の生物のどれにも当 てはまらない、一目の機械 仕掛けの怪物。
この怪物によって、平和な 日常が地獄へと変えられて しまったのだ。
「ま、また来たぞ!」
「っ!?」
周囲にいた一人の男性が怪 物を見て叫ぶ。
楓は、その声で我に返った 。
怪物の眼が赤く発光し、光 線を地上へ落としてくる。
近くの道路に当たって爆発 する。
「いやぁああああっ!」
怪物の攻撃を目の当たりに して、女性の悲鳴を上げる 。
それを皮切りに人々は、死 にたくないと一目散に逃げ 出す。
「なんで、なんでこんな事に ……」
楓も逃げ出す。
ついさっきまで友達と楽し く会話をしながら、歩いて いたのに何故、こんな事に なっているの……と、楓の 脳はその事だけでパンクし そうになった。
それも無理もないだろう… …いきなり、自分の存在が 街を破壊しに現れ、自分を 殺しに迫っているのだから 。
「きゃっ……!」
楓は足がもつれて倒れてし まった。
しかも、その際に足を擦り むいてしまう。
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2019/01/22/17:37
「痛い……」
膝を見ると、血が滲んでい た。
「ぎゃああああああっ!」
「え……?」
大勢の人の悲鳴と爆発音。
楓が前方を見ると、広範囲 に焼け焦げたクレーターが 出来上がっていた。
楓の前を走っていた人達が どこにもいない、それはつ まり……怪物の攻撃で肉片 も残らず消滅してしまった のだ。
もし、倒れていなかったら 自分も死んでいた……背筋 が 凍り、額から汗がじん わりと浮かび上がる。
「ひっ!」
楓は気づいた。
怪物に包囲されているのを ……。
「い、いや……た、たすけ…… …」
怪物の目が光る。
先程のように運良く生き残 るなんて都合の展開は起こ らない。
自分は殺される……楓の両 目から涙が流れ落ちた。
彼女の頭に浮かぶ、死にた くないと……。
両親や大好きな姉のいる家 に帰りたい……。
「……え?」
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2019/01/22/17:37
怪物の一体が爆発する。
高速で回転する何かが飛ん でいた。
それが、怪物を次々と倒し ていく。
「な、なに……?」
瞬く間に怪物は消えてなく なった。
楓は目で回転する物体を追 うと視線の先には、一人の 少女が空中に浮いているに 気づく。
深緑色のツインテール。
身体にフィットしている近 未来的なレオタード。
まるで、漫画のキャラにコ スプレしているような風貌 の少女は、回転していた物 を掴む。
それは二つの剣だった。剣 を消すと、こちらにやって 来る。
「よかった、君だけは救えた ……」
少女は日本語で声をかけて きた。
彼女の瞳には、神秘的な紋 章が浮かんでいる。
「ごめん、もっと早く来てい れば君達も救えたのに…… 」
少女は焼け跡に向けて救え なかった命に謝罪の言葉を かける。
「あ、あの……」
楓は思わず声をかけた。
少女は視線を向ける。
「ん、なんだい?」
「え、えっと……」
声をかけたものの、何を話 したらいいのか考えてなか った。
あまりにも非現実な出来事 が連続で起きて、楓は目の 前の少女が実在しているの かを確かめたかったのだ。
「君、怪我してるの……」
少女が楓より先に声をかけ る。
「はい、さっき転んで……」
「痛かったよね、ちょっと待 ってて」
少女は一歩近づいてしゃが むと、右手を怪我をした楓 の足に近づける。
すると、少女の手が光って 傷が一瞬で消える。
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2019/01/22/17:38
「えっ……傷が治った!」
楓は驚いて傷があった場所 に触れた。
完全に傷が消え、痛みすら もなくなっている。
「あなた……何者なんですか?」
楓は、一番頭に浮かんだ疑 問をぶつけた。
この、魔法のような力を使 う少女は何者なのかと。
「ん、まあ。ぶっちゃけると通りすがりの正義の味方だ よ」
少女は適当にはぐらかす。
元より、自分の正体を話す つもりはないからだ。
「さあ、ボクの事なんかより安全な場所に運ぶよ。ここ にいたらさっきのが来る」
「はい……あ!」
楓の視界に先程の怪物が入 る。
「き、来ましたよ!」
「ん、沸いてくるの早いな………」
怪物は光線を撃つ。
少女は立ち上がって右手を 前に出した。
すると、光の壁が出現して 光線を防ぐ。
「リーンブレイド!」
少女が叫ぶと、何もない所 から二つの剣が出現する。
「行けっ!」
指示を出すと剣が高速回転 して、怪物に向けて飛んで 全て切り刻む。
「……凄い」
楓の前では、漫画やアニメ のような戦闘が繰り広げら れていた。
楓は少女の戦う姿に釘付け になる。
「数が多い。さすがにボク一人じゃ限界があるか……。応援を呼ぶのもありだけど……誰を呼ぼう」
少女が眉間にシワを寄せて 言うと、後方から巨大な輝 く剣が飛んできた。
怪物の群れに大きな被害を 与える。
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2019/01/22/17:38
「今の技は……」
「ヴェルちゃん」
紫の髪を密編みで纏めた女 性が現れる。
女性は少女と似た格好で、 少し大人っぽいというのが 楓の第一印象だ。
「ネプテューヌさん! ちょ うど応援を要請しようとし てたんですよ。助かります 」
「それは何よりだわ。こっち の状況はどうなってる?」
「すいません、この子以外間 に合いませんでした……」
ヴェルちゃんと呼ばれた少 女の説明を受けて女性は「 ……そう」と、悲しそうな 表情をした。
「わたし達がもっと彼女の計 画に気づいていれば……」
「それは悔やんでも仕方ない よ……。アイツが地球を狙 うなんて誰にも予想出来な かった。完全に盲点だった んだから」
この二人は、怪物を送り込 んだ張本人を知っているよ うだ。
それは誰? と楓は聞こう としたが……。
「あっ! また……!」
楓は怯えた。
東京上空に再び怪物が出現 したからだ。
しかも、今回は夥しい数が 空で蠢いている……その中 には、大型の怪物の姿も 認められた。
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2019/01/22/17:38
「おいおい……どんだけ増えるんだよ」
緑髪の少女は増援の数に嫌 気がしてきた。
「ネプテューヌさん、このまま増え続けると被害が更に増えるよ……」
「そうね、こうなったら奥の手を使うわ」
女性の身体が発光し、一瞬 で姿が変化した。
「いくらネクストフォームでも、あの数は無理なんじゃ」
「ええ、だからプロセッサユニットのリミッターを解除するわ」
「なっ!?」
女性の言葉に少女は自分の 耳を疑った。
「そんな事をしたら、ネプテューヌさんが消滅するかもしれないんだよ!」
「ええ、でも……あの数を一気に倒して、地球を修復するにはこれしかないの」
「ネプギアはどうするんだよ! あなたが消えたって知ったら、あの子が悲しむ……」
二人が口論を始めた。
楓はおろおろしながら、二 人の顔を見ている。
「ヴェルちゃん、ネプギアの事……頼んだわ」
「何を勝手なーーーぐっ!」
少女が掴みかかろうとした が、急に片膝をついて崩れ 落ちる。
「ど、どうしたんです!」
楓は倒れた少女に詰め寄る 。
「金縛りよ。しばらく動けないわ」
「ま、待て……」
少女は女性を止めようとす るが、身体は思うように動 かない。
「プロセッサユニットーーーセーフティ解除」
その言葉を合図に、女性の 着用していたレオタードに 刻まれたラインが強く発光 する。
「はああああっ!」
輝きを纏った紫髪の女性は 怪物の群れに突撃した。
群れの中に突入すると大爆 発を引き起こす。
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2019/01/22/17:38
雪のように光の粒が降り注 いだ。
それは東京だけでなく、地 球全体を包み込んでいく。
その粒は奇跡を起こす。
「街が……」
光が地面。瓦礫に接触する と怪物に破壊された道路や 建造物が修復される。
楓にとって、信じられない 光景だった……。
「……あ」
粒子の一つが楓の所にもや って来た。
そっと、手を伸ばしたもの の……接触したら溶けるよ うに消えてしまった。
「……消えてしまいました」
自分の手を見つめる。
心なしか、光が触れた部分 が暖かく感じる。
「……ネプテューヌさん」
少女が起きた。
金縛りが解除されたようだ 。
「……あの、さっきの人は」
「自分の命と引き換えに怪物を道連れにして世界を修復したんだよ……」
「……そんな」
幼い楓でも、その言葉の意 味を理解する。
彼女は死んだのだと……。
「ごめん、なさい……」
楓は涙を流した。
「何で君が謝るの?」
「だって……あの人、わたし達を守る為に……」
「ネプテューヌさんの為に泣いてくれるんだね。ありがとう……」
少女は楓の頭を優しく撫で た。
「忘れないで、あの人がここにいた事を……ボクも忘れないから」
少女も泣いていた。
彼女も、あの女性が亡くな って悲しんでいる。
その後、楓は少女に連れら れて家族と再会できた。
お礼を言おうとしたが、既 にその姿はどこにもなかっ た。
楓は忘れない。今日の出来 事をずっと……。
亡くなった彼女も。
泣いていた彼女も。
もう、誰も悲しい思いをさ せない為に強くなろう。
そう心に誓うのだった。
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2019/01/22/17:38
◇
ーーー十年後。
2028年。あの厄災から人 類は平和を取り戻しつつあ った。
十年前、多くの人が怪物に よって命を落とした。
惨劇を繰り返さない為に、 世界各国は同盟を結び、軍 事組織『AEIGS』を設立。
皮肉な事に、怪物のおかげ で地球の技術レベルは格段 に進歩したのだ。
AEIGSはあの怪物を『ヴァ イス』と名付け、彼等に対 抗する戦闘兵器を完成させ た。
『アリスギア』
破壊されたヴァイスを分析 し、作り上げた最強の兵器 ……だが、一つ問題があっ た。
それは、女性にしか扱えな かった。それも一部の。
十年前に起こった光の雨は 世界中の大人の女性。また は中高生の少女にアリスギ アを操る力を与えた。
未だに人類に牙を向くヴァ イスから、アリスギアを纏 い。立ち向かう彼女を人々 はこう呼んだ。
『アクトレス』とーーー。
◇
ここに一人の少女がいる。
私立星条大学付属第一高等 学校の制服を着た彼女は、 東京の空を見上げていた。
肩まである綺麗な闇色の髪 が風で揺れる。
凛とした表情からは、当時 の面影が残る。
彼女の名前は吾妻楓。
そう、あの厄災の時に見知 らぬ少女達に救われたあの 少女だ。
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2019/01/22/17:38
十年の時を経て、六歳だっ た彼女は十六歳となりま大 きく成長した。
楓がいるのは、十年前に彼 女達に助けてくれた場所。
楓は十年経っても覚えてい る……あの日、助けてくれ た少女と世界を救う為に命 を散らした女性を。
そして、強くなろうと決意 した事も……。
ヴウウウウウウウウーーー。
街全体に設置されたスピー カーが警告を知らせる。
楓は険しい表情を浮かべた 。
「……来ましたね」
楓は走り出す。
向かう先は自分の所属する 部隊『成子坂製作所』
そう、楓はアクトレスにな っていた。
人類を仇なす敵から大切な 人達を守る為、彼女の物語 がスタートした。
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2019/01/27/09:06
東京中に設置されたスピーカーがヴァイス接近の知らせを告げる。
「皆さん、こちらです! 慌てず押さないでください!」
警官が住民を誘導する。
東京に住まう人々は、警官に従って迅速に厄災時に作られた避難用地下シェルターに移動する。
この十年でヴァイスの襲撃を何度も体験してきた人類は彼等に対する恐怖が薄れて、冷静な判断で行動できるようになっていた。
周辺住人の最後の一人がシェルターに入ったのを見届けると、誘導していた警官達もそれに続く。
強化シャッターが降りて出入口を閉める。
このシャッターの強度は小型のヴァイス相手なら簡単には打ち破れない強度だ。その存在も一般人には頼もしい存在でヴァイスの恐怖を薄れさせた要因でもある。
◇
別の場所の地下シェルターは、もう少しで全ての近隣住民が避難を終えようとしている。
「おかあさん、またヴァイスがきたの〜?」
「そうよ、でも、大丈夫よ。アクトレスのみんなが来てくれるからね」
避難中。娘を怖がらせない為に母親が笑顔で言う。
アクトレスは、この世界でヒーローのような存在。
きっと娘も喜ぶだろうとアクトレスの話をした。
「うん、すぐにきっと来てくれるね!」
母親の願い通りに娘はパッと明るくなった。
……だが。
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2019/01/27/09:07
娘の視線の先で異常が発生する。
空間が歪んで多数のヴァイスが出現したのだ。
「おかあさん!」
「え、あっ……!」
娘の反応で母親もヴァイスの出現に気づいた。
周りにいた避難中の住民にも伝わっていく。
「皆さん下がって!」
市民を守る為に警官が前に出てヴァイスに拳銃を発砲。
被弾はしたが、ヴァイスの装甲に損傷は見られなかった。
「やっぱりこんな豆鉄砲じゃ無理か……」
ヴァイスを倒せるのはアリスギアを装備したアクトレスだけだ。
人間相手に強力な銃でも、ヴァイスには傷一つ付けられない。
「おい、攻撃が来るぞ!」
警官の一人が叫ぶ。ヴァイスの目が赤く発光した。
攻撃の合図だ。警官は察知したこのままでは撃たれると……。
住民の避難が完了していない今の状態で攻撃されたら甚大な被害が出てしまう。
「早く中へ入ってください!」
早く中へ避難するように促すが遅い。
住民を標的と判断したヴァイスがその巨大な目から瞳の色と同じく赤い光線を発射したからだ。
誰もが撃たれると感じた。ある者は子供を庇うように盾となり。
またある者はこの場で死ぬと恐れて身を震わせ、中には周囲の人を押し退けてシェルターに逃げ込もうとする者もいた。
だが、攻撃は住民に当たる事はない。
何故なら、後方から市民を守るように機械の鎧を纏った少女達が自身の身体周辺に薄い半透明な膜を張り巡らせてヴァイスの攻撃を防いだからだ。
「おかあさん! アクトレスが来たよ!」
娘が上空に浮遊している三人組の少女を指差して大喜びする。
彼女達こそヴァイスの魔の手から人類を守る少女達『アクトレス』なのだ。
少女達の中に楓の姿もあった。
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2019/01/27/09:07
「ここは私達が引き受けます。皆さんは早く避難を!」
楓が避難を訴える。
人類の希望であるアクトレスが来たことで、人々の不安が和らいでいった。
迅速に地下シェルターへと避難をする。
「……皆さんの避難は完了しました」
全員が避難するのを見届けた楓が言う。
「よーし、じゃあバンバン倒しちゃうぞ!」
赤毛のショートヘアーの少女。日向リンが片腕をブンブンと振り回す。
「……待ちなよ、リン」
「え〜……何で?」
リンを止めたのは小鳥遊怜という青い髪を一つ括りにした少女。
怜に呼び止められてリンが口を尖らせる。
「あれを見なよ。ヴァイスが増えてる」
「……え?」
半信半疑な眼差しでヴァイスの方向を見たリン。
怜の説明されたように、空間が歪んでそこからヴァイスが次々と溢れていた。
「おわっ! ホントーだ!」
「でしょ、無闇に突っ込むのは得策じゃないよ」
「大丈夫大丈夫、小型ばっかりだからバーンと派手にぶっ飛ばそう!」
「……話を聞きなよ」
全く忠告を聞き入れないリン。怜は肩を落とした。
「リン。相手が小型だといえど油断してはいけませんよ。どんな相手でも全力を持って挑まねばなりません」
「おー。さすが楓。話がわかる〜」
「いや、楓さんはリンを止めようとしてるんだけど……」
「……」
戦闘前というのに気が緩い会話が行われている。
楓は二人のやり取りを口元を緩ませながら見ていた。
この二人とは長い間。チームとして共に戦ってきたから安心して背中を預けられる。
それだけではない、この何気ない会話も普段通りで気が安らぐ。
気が安らぐというのは戦闘への緊張を消し去り冷静な判断で戦闘がに挑めるということだ。
だからリンが話を聞かないとしても楓は怒らないのだ。
『三人とも、聞こえてる』
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2019/01/27/09:07
女性の声が三人の頭部に付けられた耳飾りから聞こえてくる。
二人は会話をピタリ、と止めた。
「はい、聞こえてますよ。薫子さん」
楓は頭に付けられた耳飾りに触れながら応答する。
これはただの飾りではなく遠く離れた成子坂製作所と連絡を取る為のヘッドギア型通信装置なのである。
仕組みは成子坂製作所の通信装置から発生した電波を受信してヘッドギアに内蔵されたスピーカーから音声を流しているのだ。
このヘッドギアのおかげで戦いの中でも作戦指令室にいるオペレーターが指示を送る事によってアクトレスは臨機応変に戦えるようになる。
もちろん、アクトレス同士の通信も可能だ。
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2019/01/27/09:07
『その周辺は住宅が多い。ヴァイスの攻撃による被害を防がなければならない。南の方角に使われてない廃工場があるの。そちらに移動してから戦闘を開始して』
「わかりました。では、目標地点まで後退します」
『ありがとう。あなた達が無事に帰ってくるのを祈っているわ』
相手側からの通信が切れた。楓はヘッドギアから手を下ろす。
「これより戦闘を行います。南の廃工場にヴァイスを誘い込んで一気に仕留めましょう」
「わかったよ。で、リンはちゃんと理解できた?」
「後ろに下がって、広い場所に到着したらズドーン! と一気に蹴散らすんだよね」
リンが親指を立ててはにかむ。
怜が苦笑まじりに「上出来」と、答えた。
「戦闘ーーー開始です!」
瞬間。楓の右手に光が弾けた。
何もなかった空間に長身の銃が現れた。
楓はグリップを握るともう片方の手で銃身を支える。
アリスギアにはヘッドギアを含めると四つのパーツによって構成されている。
その一つがウェポンギア『ショット』
名前の通りにアクトレスが使う射撃武器だ。
『ライフル』『デュアル』『バズーカ』『スナイパー』の四系統に分類されている。
楓が使用しているのは最もバランスの取れた『ライフル』
更に楓専用にチューンアップされた代物を使っている。
その名も『ヤシマ』楓はトリガーを引くと銃口から粒子エネルギーが発射される。
しかし、その一発はヴァイスに当たらなかった。
何故なら今の射撃は威嚇目的で最初から当てるつもりはなかったからだ。
敵からの攻撃を受け、ヴァイス達は楓を敵と認識する。
こちらへ向けて移動を開始した。
「来ました、移動を始めましょう」
三人が後退を始めた。ヴァイスはスピードを上げて追跡してくる。
「楓、あいつら結構速いよ!」
「なら、こっちも速度を上げましょう!」
アリスギアに搭載されたスラスターの出力を上げて加速しながら上昇する。
住宅街に被害を出さないように高度を上げたのだ。
ヴァイスとの距離が徐々に離れていく。
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2019/01/27/09:07
「ねーねー、到着までにどれくらいかかるの〜?」
『あともう少しよ』
リンがオペレーターと通信している。
聞こえてくるのは、先程の女性ではなく別の少女からのものだった。
『リンさん、見えてきましたよ』
また別の少女の声が目標地点が近くにあると告げる。
三人の視界に人気のない古びた工場の姿が確認された。
「見えた。反撃開始だね」
「はい」
三人が目標地点に到着。急停止して振り向く。
「行くよ、リン!」
「OK!」
怜とリンが専用のショットギアを顕現させて、その手に握る。
「ドッカーーン!」
リンが擬音系の叫びを上げながらトリガーを引く。
砲口から特大の粒子エネルギーが発射された。
粒子がヴァイスに接触すると爆発を起こして周囲のヴァイスも巻き込む。
「……私も!」
怜もリンの攻撃に続いた。
砲口から、リンのショットギアと同等の粒子が発射される。
これも被弾すると爆発を起こして複数のヴァイスを撃破する。
二人のショットギアの系統は『バズーカ』
威力と攻撃範囲に優れた広範囲遠距離武器だ。
リンが『サーメートサーブ』怜が『グシスナウタル』という自分の性能に合わせたものを使用している。
「吾妻楓……参ります!」
二人の攻撃でヴァイスの群れは大きく削られた。
楓が突貫していく。ヤシマを消して次に呼び寄せたのはアクトレスが近接戦闘を行う際に使用する『クロスギア』という接近戦用兵器。
楓の手に新たに顕現されたクロスギア『薄緑』は日本刀の形状をしていた。
「てやぁっ!」
薄緑を真上から振り下ろす。
薄緑の刀身は接触と同時に光粒子を発生させてあらゆるものを断ち切る。
「はあっ!」
一体目を倒してすぐに切り返し、二体目を斬る。
楓は流れるような動きで次々とヴァイスを撃破していく。
「やっぱ、接近戦やってる楓はかっこいいね〜」
「当然だよ。幼い頃から剣道をやってるんだから、今も昔もあの人は努力を怠らない。あれ全部特訓の賜物だよ」
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2019/01/27/09:08
楓は高名な剣術道場の師範の娘である。
小さな頃から厳格な父に剣術を教わっていた為に接近戦は楓の得意分野なのだ。
「まあ、それでも危ないところはあるけどね……」
怜はグシスナウタルの砲口を楓の後方に向けた。
ヴァイスの一体が楓に迫っている。
怜がトリガーを振り絞ってグシスナウタルが粒子エネルギーを発射。
ヴァイスの撃墜に成功した。
距離と威力を調節していたので楓が爆発に巻き込まれる事はなかった。
「楓さん、後方に注意だよ」
「怜ちゃん、ご支援ありがとうございます!」
礼の言葉を口にしながら楓は次々とヴァイスを両断していく。
「リン、私が援護するから楓さんと一緒に蹴散らして」
「待ってました!」
リンが強気な笑みを浮かべる。
サーメートサーブを虚空に消して代わりにリン専用のクロスギア『ダイアゴナルストライカー』を呼び出した。
この武器は『ハンマー』で破壊力だけなら楓の薄緑を凌駕している。
「ぬおおおおおっ!」
ダイアゴナルストライカーを掴んでリンが敵陣に特攻。
豪快に振り回してヴァイスを叩き潰す。
「リン、一気に決めましょう!」
「わかった!」
楓とリンのコンビネーション攻撃と怜の援護でヴァイスが壊滅寸前にまで減らされていく。
『みんな、中型ヴァイスが現れる。気をつけて!』
戦闘が終わりに近づいた頃にオペレーターから通信が送られてくる。
戦闘区域の空間が歪み、そこから一回り大きい人型のヴァイスが出現した。
「こんな時にヴァイスワーカーですか……」
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2019/01/27/09:08
楓の表情が険しくなる。
ヴァイスワーカーとは、中型サイズのヴァイスの総称。
小型ヴァイスとは比べ物にならない戦闘力を誇る。
複数のバリエーションが確認されており、今回現れたのはライフルと長剣を装備したノーマルタイプだ。
ヴァイスワーカーは出現するなり、小型ヴァイスと戦闘しているリンに向けて発砲した。
「どわっ!」
リンに粒子エネルギーが被弾して姿勢が崩れる。
だが、衝撃を受けた瞬間に球場のエネルギーフィールドが彼女を包んだ。
市民をヴァイスの攻撃から守ったのと同じものだ。
アリスギアは自動で次元を遮断するフィールドを展開して装着者を守る。痛みや衝撃はあるものの、この次元遮断フィールドのおかげでアクトレスは怪我をする心配がな
「やったなこのっ!」
スラスターで姿勢を制御したリンがヴァイスワーカーに向けて突進する。
ヴァイスワーカーは後退しながら迫るリンを撃つ。
「リン、踏み込み過ぎてはいけません!」
楓が制止の言葉を投げ掛ける。
遮断フィールドで致命傷は受けないにしても万能ではない。
遮断フィールドにはHPが設定されている。
それが0になってしまったら戦闘不能になり、成子坂製作所に強制転送されてしまう。
HPの数値は個人差があって三人の中でリンが一番高いが、いくら数値が高くても攻撃を受ければ減少していく。
「ふんがー!」
楓の言葉を聞かずにリンは懐に飛び込んでダイアゴナルストライカーでライフルを破壊し、ヴァイスワーカーを大きく吹き飛ばした。
「やったぁ!」
『やったじゃないわよっ!』
「おおうっ!?」
オペレーターの怒鳴り声が届けられて驚くリン。
『あんた……あれだけ無茶な戦いは控えろって磐田さんに言われてたでしょ!』
「いや、でも倒せたじゃん?」
『……帰ったら怒られるわよ』
「……」
リンが黙る。
額から汗がだらだらと流れ落ちている。
どうやら磐田という人に怒られるのを恐れているようだ。
「全く……何をやってるんだか……」
リンの無事を確認しつつ、怜は肩を竦めた。
「あ、あの……まだヴァイスワーカー生きてますよ」
別のオペレーターの声が届けられる。
リンの強力な一撃を受けてもヴァイスワーカーはまだ動いていた。
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2019/01/27/09:09
「リンの一撃でも動けるとは……やっぱり小型とは違いますね」
言って楓は薄緑を消して再びヤシマを呼び出す。
「リン、怜ちゃん。同時攻撃で一気に勝負を決めます!」
「了解! リン、聞こえたよね?」
「もちろん!」
リンは再度、サーメートサーブを召喚してグリップを握り締める。
リンと怜はトリガーを強く押し込んで粒子エネルギーをチャージする。
二人の持つバズーカの砲口が唸りを上げる。
「……私も」
楓も一撃の威力を高める為にエネルギーをチャージする。
だが、ライフルはバズーカと比べて威力が低い。
楓は加えてある兵器を発動させた。
アリスギアの一つ、アクトレスの身体を包む機械の鎧『ドレスギア』
楓が使おうとしているのは上半身に装着される『トップスギア』だ。
トップスギアはアクトレスの両腕、そして装着者に付き従うように背面に浮いているギアの事を指す。
楓の装備しているドレスギア『源九郎』
その背面に滞在しているひし形のギアが可変して砲身が姿を現す。
「こちらは準備できました」
「こっちもいつでも大丈夫だよっ」
「二人とも、ヴァイスワーカーが仕掛けてくるよ!」
ヴァイスワーカーが長剣を構えて加速してくる。
「二人とも、いきますよっ!!」
二人は無言で頷いた。
同時にトリガーを押し込む。
三人のショットギアから溜め込んだ粒子エネルギーが一斉に勢いに乗せたヴァイスワーカーへ向かっていく。
リンと怜が放った粒子は特大サイズになり、楓のは何本の粒子が飛んでいく。
更に楓の源九郎に搭載された砲身『雲珠桜』から放たれたホーミングレーザーが正確にヴァイスワーカーを貫く。
すべての攻撃を受けてヴァイスワーカーは爆発した。
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2019/01/27/09:09
◇
成子坂製作所作戦指令室に備えられた多数のモニターには、楓達が勝利する映像がハッキリと映し出されていた。
「三人とも、お疲れ様」
耳にインカムを装着した女性が三人に語りかける。
その声は楓達に指示を出していた女性と同じだ。
山野薫子。出張中の隊長に代わって成子坂製作所へ出向を命じられた東京現役最年長のベテランアクトレスだ。
「目標は全て撃墜したわ。帰還してゆっくり休んでちょうだい」
『そだね。早く小結さんのご飯食べたーい!』
映像に映るリンが大きく背伸びをした。
「あんたは先に磐田さんに説教されなさい……」
『ええ〜……あたし頑張ったのに〜』
肩を落としてリンのテンションが一気に下がっていく。
「お、お姉ちゃん……リンさん頑張ったんだから……」
「それとこれとは話が別でしょ。この間アリスギアを破損させたばかりなんだから、少しは反省してもらわないと」
座席に腰を落として会話をしているのは、顔が瓜二つの少女二人だ。
琴村朱音と琴村天音の双子の姉妹。
強気でつり目の方が姉の朱音でたれ目で大人しいのが妹の天音だ。
「朱音さんは優しいわね。リンさんを気遣ってるんでしょ?」
「ち、違います! 誰があんな奴の心配なんかするもんですか!」
朱音は顔を真っ赤にして顔を背けて座席に背を預けた。
「わ、私はただ……さっさとヴァイスを倒して欲しかっただけ。早く凪さんのお見舞いに行きたいから……」
「なら、もう行っていいわ。二人もお疲れ様」
薫子は二人の側にやって来て、肩にそっと触れる。
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2019/01/27/09:09
「凪さんもあなた達の顔を見れば喜ぶわ。真理さんと杏奈さんも今、凪さんのお見舞いに行ってるわよ」
「……」
朱音が気まずそうな顔になる。
「お姉ちゃん……どうしたの?」
「あの二人に会うの……抵抗あるなぁって」
「まだ気にしてるの。二人は私達の事を許してくれたんだよ」
「そうだけど……あたし達がやった事は……」
「はい、そこまで……」
薫子が二人の会話を中断させる。
姉妹は驚いて薫子を見上げた。
「あなた達は被害者よ、そんなに自分を責めないで……」
そう言って薫子は二人の頭を撫でた。
「ちょ、ちょっと薫子さん! やめてって、子供じゃないんだから……!」
朱音が顔を真っ赤にする。天音は心地良さそうに喉を鳴らしていた。
「私からすれば、あなた達は娘のようなものよ」
薫子は手を離し、二人の身体を抱き寄せる。
「確かに……あなた達は違反を犯したわ。でも、ちゃんとそれは償えるものよ。私も成子坂のみんな。そして真理さんや杏奈さんだって、二人が償えるように協力してくれるわ……」
身体を離し、薫子は二人の顔を交互に見る。
「少しずつでいい。二人との距離を縮めていけば……わだかまりもなくなるわよ。もし躊躇しているなら、私が着いていってあげるわ」
「……はあ」
朱音は苦笑混じりに溜め息を吐いた。
「ねえ、天音。ここの人って本当にお節介よね」
「うん、でも、前の企業に比べたら断然いいよ」
「……そうね」
双子はくすくす、と笑うと薫子に向き直った。
「薫子さん、あたし達ーーー」
ウウウウウウウウウウーーーっ!
「「「っ!?」」」
作戦指令室に警告音が響く。
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